離島に潜在する海洋エネルギー、地熱や太陽光を加えて供給率25%へエネルギー列島2013年版(42)長崎

およそ1000近い大小の島から成る長崎県では、分散型の電力供給体制を構築することが急がれる。島の周辺には海洋エネルギーが豊富にあり、洋上風力や潮流発電の開発プロジェクトが進み始めた。九州本島では地熱や太陽光が有望で、多彩な再生可能エネルギーを県全域に拡大していく。

» 2014年01月21日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 長崎県は日本で島の数が一番多く、実に971カ所も点在している。海に囲まれた離島の中で電力源を増やすためには、身近にある再生可能エネルギーの活用が欠かせない。大小さまざまな島を含めて、県内の全域に太陽光からバイオマスまで新しい発電設備を導入するプロジェクトが広がってきた(図1)。

図1 長崎県の再生可能エネルギー導入状況(画像をクリックすると拡大)。出典:長崎県産業労働部

 中でも離島ならではの取り組みとして注目を集めるのが、五島列島を中心にした海洋エネルギーの開発だ。海中を流れる潮のエネルギーによる潮流発電や、陸上を上回る風速を生かせる洋上の風力発電を実用化するために、産・学・官の連携による実証実験が相次いで始まる(図2)。

図2 海洋再生可能エネルギーの実証候補地。出典:長崎県産業労働部

 五島列島の椛島(かばしま)に近い洋上では、浮体式の風力発電設備を使った実証実験が進んでいる。沖合1キロメートルの海域に2MW(メガワット)の大型風車を設置して、2013年10月に運転を開始したところだ。海底ケーブルを通じて陸上まで電力を供給することができ、商用レベルの発電能力をもつ浮体式の風力発電設備としては日本で初めての試みになる。

 海に浮かぶ長い円柱の先端に直径80メートルの風車と発電機を備えている(図3)。全長は172メートル、総重量は3400トンに及ぶ。海面から上の部分の高さは96メートルに達して、上空を吹く平均7.5メートル/秒の風速を受けながら発電する。

図3 五島市椛島沖の洋上風力発電設備。出典:戸田建設ほか

 このあたりの海域は水深が約100メートルと深いために、発電設備を海底に固定する着床式の建設は難しい。浮体式ならばチェーンで海底に係留する方法により、水深の深い海域でも設置することができる。

 椛島沖では2015年度まで実証実験を続けて、発電設備の性能や安全性のほか、動植物など自然環境への影響を検証する。その成果をもとに、周辺の海域にも洋上風力発電を展開していく計画だ。

 五島列島には活火山があって、島には温泉も出る。地熱発電の可能性があるが、現時点で具体的な開発プロジェクトは見あたらない。長崎県内ではもう1カ所、島原半島にある雲仙岳の周辺が地熱発電に適している。雲仙岳のふもとにある小浜(おばま)温泉で2013年4月から、温泉水を活用した「小浜温泉バイナリー発電所」が運転を開始した(図4)。

図4 「小浜温泉バイナリー発電所」の全景。出典:小浜温泉エネルギー

 バイナリー発電は低い温度でも蒸気タービンを回して発電できる方式である。小浜温泉では源泉から湧き出る約100度の温水を使って150kWの電力を供給することが可能になった。従来は温泉水のうち3割だけを利用して、残る7割は使わないまま流していた。

 長崎県は再生可能エネルギーに恵まれながらも、未開発の資源が多い。例えば太陽光発電の潜在量は全国の都道府県の中でも6番目に大きいことがわかっているが、これまでの導入量は22位にとどまる(図5)。再生可能エネルギー全体では38位に下がってしまい、九州の7県では最下位だ。

図5 長崎県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 豊富にある再生可能エネルギーを活用できるように、県が新たなビジョンを掲げて2014年から拡大計画に取り組む。2030年をターゲットにして、太陽光を筆頭に風力、地熱、潮流発電の導入量を大幅に増やす目標を設定した(図6)。この計画によって長崎県内で消費する電力のうち25%を再生可能エネルギーで供給できるようにする。

図6 長崎県の再生可能エネルギー導入目標。出典:長崎県産業労働部

 特に開発期間が短くて済む太陽光発電を早急に増やすため、遊休地を数多く所有する市町村や電力会社などと連携してメガソーラーを広げていく。すでに九州電力グループが10MW級のメガソーラーを2カ所に建設する計画を進めている。いずれも石炭火力発電所の跡地である。

 大村市にある20万平方メートルの用地には、発電能力が13.5MWの「大村メガソーラー発電所」を2013年5月に稼働させた(図7)。年間に約1400万kWhの電力を供給することができて、一般家庭で4000世帯分の使用量に匹敵する。続いて佐世保市の跡地で10MWのメガソーラーが2014年3月に運転を開始する予定だ。

図7 「大村メガソーラー発電所」の全景。出典:キューデン・エコソル

 離島でもメガソーラーが増え始めた。ただし太陽光や風力発電は天候によって出力が大きく変動するために、安定した電力源としては使いにくい。この問題を解消するために、九州本島から40キロメートル離れた壱岐島(いきのしま)で、大型の蓄電池を使った実証実験が進められている。

 壱岐島で稼働するメガソーラーや風力発電所の電力を、島内の変電所に設置した蓄電池に貯蔵する。蓄電池で出力を調整しながら、安定した電力を供給する仕組みだ。再生可能エネルギーを離島に展開していくうえで不可欠な技術になる。

*電子ブックレット「エネルギー列島2013年版 −九州・沖縄編 Part1−」をダウンロード

2015年版(42)長崎:「島の海洋エネルギーで燃料電池船も走る、温泉地には地熱バイナリー発電」

2014年版(42)長崎:「島々にあふれる太陽光と海洋エネルギー、農業や造船業の復活に」

2012年版(42)長崎:「島に分散する風力発電所、日本で初めて海にも浮かぶ」

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