島の海洋エネルギーで燃料電池船も走る、温泉地には地熱バイナリー発電エネルギー列島2015年版(42)長崎(1/3 ページ)

長崎県の五島列島で海洋エネルギーの開発が活発だ。浮体式による日本初の洋上風力発電設備が運転中で、余った電力から水素を製造して燃料電池を搭載した船に供給する。県内のテーマパークでも太陽光発電と組み合わせた水素エネルギーの導入が始まり、温泉地では地熱発電の実用化が進む。

» 2016年02月09日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 長崎県の西方100キロメートルのところに、大小63の島で構成する五島市がある(有人島は11)。国が取り組む海洋エネルギーの実証フィールドに選ばれて、浮体式の洋上風力発電と潮流発電の先端プロジェクトを担っている(図1)。

図1 五島市の周辺海域で取り組む海洋再生可能エネルギーの実証フィールド。出典:五島市

 日本で初めての浮体式による洋上風力発電プロジェクトは、五島市の椛島(かばしま)の沖合で2010年から環境省が実施中だ。当初は発電能力が100kW(キロワット)の小規模な試験機を使って性能や風況を観測した。その後2013年に高さ170メートルの実証機「はえんかぜ」に切り替えて商用レベルの運転を続けている(図2)。

図2 浮体式洋上風力発電の実証設備「はえんかぜ」(上)と設置地点(下)。出典:五島市、環境省

 「はえんかぜ」は直径80メートルの羽根を回転させて、最大2MW(メガワット)の電力を供給することができる。椛島周辺では年間の平均風速が7メートル/秒を超えることから、設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は30%以上になる。年間の発電量は5000万kWh(キロワット時)を上回る。

 最近では2015年9月に戦後最大級の台風が五島列島の近くを通過した時の状況が話題になった。本土の長崎市内では港に係留していた船が強風であおられて転覆する被害も発生するほどだったが、はえんかぜは強風に耐えて発電設備にも問題が生じなかったからだ。

 さらに洋上で作った電力から水素を製造する試みも始まっている。この水素は日本初の燃料電池船に供給して実際に海上を走らせた(図3)。はえんかぜが発電した電力で水を電気分解して水素を作り、CO2を排出しない水素で船を走らせることができる。海洋エネルギーを活用した近未来の島の姿を想像させる試みである。

図3 水素で走る燃料電池船「長吉丸(Ever Fortune)」。出典:五島市

 実証フィールドは椛島沖を含めて五島列島の周辺海域で3カ所が選ばれた。残る2カ所では潮流発電を計画している。現在は潮流の速さや向きなどを調査しながら、具体的な実施方法を検討中だ。2020年をめどに発電機を海中に設置して実証試験に取り組む予定になっている。

 五島市で利用可能な再生可能エネルギーの潜在量は60億kWh(キロワット時)を超える。そのうち6割は浮体式の洋上風力発電で、次いで潮流発電が15%、着床式の洋上風力発電が9%を占めている(図4)。膨大な海洋エネルギーを電力に転換して、2030年には再生可能エネルギーで7.3億kWhの電力を供給できるようにすることが目標だ。

図4 五島市の再生可能エネルギー導入可能量。単位:MWh(メガワット時)。出典:五島市

 この目標を達成できると、年間の発電量は一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して20万世帯分を上回る規模になる。五島市だけではなくて長崎県全体の総世帯数(56万世帯)の3分の1以上をカバーすることが可能だ。海洋エネルギーの導入量を拡大しながら、経済と環境の両面で持続可能な「エネルギーのしま」を目指す。

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