海に浮かぶ未来の発電所、浮体式の洋上風力が本格始動へ(後編)自然エネルギー

長崎県の五島沖に続いて、福島県東部の沖合でも浮体式による本格的な洋上風力発電の実証実験が2013年度から始まる。政府が復興関連予算のうち115億円を割り当て、3種類の大規模な浮体式の発電設備を建設する計画だ。実証するテーマのひとつに「漁業との共存」を掲げる。

» 2013年04月15日 09時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

「海に浮かぶ未来の発電所、浮体式の洋上風力が本格始動へ(前編)」

 浮体式による国内で2番目の洋上風力発電設備を建設する場所は、福島県東部の双葉郡から沖合に20キロメートルほど離れた地点を予定している。双葉郡と言えば東京電力の福島第一原子力発電所があるところで、まさに復興を必要としている地域である。

 実証実験では洋上に風力発電設備3基と変電設備1基を浮体式で建設する計画だ(図1)。陸地から約20キロメートルの距離を送電ケーブルでつないで、同じ双葉郡にある東京電力の広野火力発電所まで電力を送る。

図1 福島沖の浮体式洋上風力発電実証プロジェクトの計画地点。出典:資源エネルギー庁

 このプロジェクトで取り組む第1のテーマは、発電量をはじめとする性能・技術面の評価である。特に浮体式の場合には波や潮によって生じる揺れの影響が大きな課題になる。長崎県の五島沖のプロジェクトでは1種類の発電設備で検証するのに対して、福島沖のプロジェクトでは形状の違う3種類の発電設備を使って揺れの影響を比較する(図2)。

 3種類のうち1つは五島沖の設備で採用した円筒形のスパー方式を改良した「アドバンストスパー」。残る2つは柱状の構造物を組み合わせて半分程度が海中に潜るようにした「セミサブ」と呼ぶ構造をとる。セミサブは柱の数によって3コラム型と4コラム型の2種類を用意する。

図2 浮体式洋上風力発電設備の概要。出典:福島洋上風力コンソーシアム

 2013年度〜15年度の3年間のプロジェクトの中で、まず第1期として2MW(メガワット)の発電能力がある設備を4コラム型のセミサブ方式で2013年度中に建設する予定だ。合わせて変電設備の「サブステーション」をアドバンストスパー方式で洋上に浮かせて、複数のケーブルを経由して陸上まで送電する。このサブステーションには風速計や流速計などの観測機器を装着して、各種の気象データを収集する役割もある。

図3 超大型風力発電システム。出典:三菱重工業

 続いて第2期の計画では2014年度中に、世界最大級の7MWのシステムを搭載して大規模に洋上風力発電を開始する(図3)。今のところ陸上を含めて風力発電では2MWが最高クラスで、風車の羽根の部分は40メートル程度の長さがある。第2期で採用する超大型の風車は長さが2倍の82メートルの羽根で、最高地点は海面から200メートルほどの高さまで達する見込みだ。これだけ大きな設備の揺れを検証するために、セミサブ方式とアドバンストスパー方式の2種類の発電設備を併設して比較を試みる。

 発電設備から陸上まではサブステーションを経由して送電するが、陸地に近い地点までは「ライザーケーブル」と呼ぶ遮水性に優れた送電線を海中に浮かせた状態にする(図4)。浮体式の洋上風力発電ならではの送電方法である。

図4 第1期で設置する送電設備。出典:資源エネルギー庁

 以上のような発電と送電の設備を使って性能・技術面を検証する一方で、安全性や環境面、さらに漁業に及ぼす影響も詳しく調査する。安全性では船舶の航行リスクの評価を重視している。環境面は主に騒音と水質、動植物に対する影響を調べる。

 このプロジェクトで最大の課題になるのが漁業との共存である。洋上風力発電に対しては地元の漁業関係者が難色を示していて、そのために建設計画の開始が遅れた経緯がある。発電設備に加えて海中や海底にケーブルを敷設することによって、魚介類や海藻類、プランクトンの生育にも影響を及ぼしかねないからだ。

 復興を目的にした国家プロジェクトであり、漁業に対する悪影響を避けることは必須の条件である。むしろ浮体式の発電設備を活用した「海洋牧場」などの可能性を示して漁業を支援することが重要なテーマになる(図5)。

図5 洋上風力発電と漁業の共存イメージ。出典:海洋産業研究会

 世界でも類を見ない浮体式による大規模な風力発電プロジェクトを通じて、福島県が風力発電を中心にした再生可能エネルギー分野の一大産業集積地になることが最終的な目標だ。それが実現できれば日本の洋上風力発電は大きく発展する。

 未来の発電所が広い海に数多く浮かんで、地上に大量の電力を供給できるようになる時代は遠くない。遅くとも2050年までには福島の完全復興とともに日本の電力供給体制は大きく変わっている。

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