なぜなぜ風力発電、生まれ変わる古代の技術発電の仕組み(2)(1/2 ページ)

風の力で羽根車を回転させる風車の歴史は古い。中国やエジプトでは3000年以上記録をさかのぼることができる。発電機が発明された直後に風力発電が芽生えたものの、ある1人の人物がいなければ、現代の風力発電はなかったかもしれない。

» 2013年08月13日 14時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

短期連載「発電の仕組み」

  • なぜなぜ太陽光発電、電力が生まれる理由 (第1回
  • なぜなぜ地熱発電・火力発電、お湯は使わない(第3回
  • なぜなぜ燃料電池、実は「電池」ではないのでは? (第4回
  • なぜなぜ海洋温度差発電、なぜ静止した海水で発電できるのか (第5回


 なぜなぜ短期連載、第2回は「風力発電」を紹介する。

 風力発電は、熱を利用せず、空気の運動エネルギーを直接利用して発電機を動かす技術だ。電力を生む仕組みが分かりやすい。先行技術である風車には数千年の歴史がある。

 風車はかんがい(水のくみ上げ)や製粉などに古くから利用されており、科学技術が発達する以前から、各地に広がっていた。欧州だけを取り上げても風車には約700年の歴史がある。

 このため回転力を電力に変える発電機が発明された直後に、世界最初の風力発電が実現している。英国では1887年、米国でも1888年に最初の風力発電機が動き出し、最初の発電機がそのまま20年程度稼働している。ただし、英国や米国は古くから引き継がれてきた風車をそのまま利用しており、技術的な進歩がなかった。

デンマークが生んだ現代の風力発電

 風力発電機を革新したのがデンマークのラクール(Poul La Cour)だ。彼はもともと気象学者だったが、同時代の発明家トマス・エジソンが電信機を発明すると、気象情報の伝達に役立つことからすぐさま改良に取り掛かり、複数の周波数を利用して、1本の電線で複数の交信を可能にする技術を1874年に確立した。科学者としてだけでなく、技術者としても優れた腕を持っていたことになる。

 その後、高等学校の教師になり、農業国デンマークの在り方と、当時普及が始まった電力について考え始めた。デンマークは風が強いため、すぐに風力による発電を思い付く。しかし、発電効率が低すぎた。1891年、デンマーク政府の支援を受けて、風力発電による水素の生成を試みる。水を電気分解して水素を作り、水素の形でエネルギーを蓄積し、ガスエンジンを動かすという発想だ。この研究は結局失敗に終わるが、発想は現代にも受け継がれている。

 水素関連の研究と並行して、1896年からは流体力学を利用した風車の改善研究に着手した。従来の風車は風の「抗力」を利用していた。風が押す力を用いるということだ。彼の目的は風の「揚力」を利用すること。揚力は飛行機が空に舞う原理として知られている。

 風車の改善を目的とした世界初の風洞実験を通じて改善が進む。実験開始後、数週間で重要な結論が得られ始めた。従来の風車は羽根の数が多かった(図1)。ところが、実験によれば羽根の面積が一定なら、羽根の数が少ない方が得られるエネルギーは多いのだ。羽根の角度(斜角)は小さい方が望ましく、風車全体の回転速度は速くしたほうが良いことも分かった。彼の考案した高速風車はデンマーク中の農村に電力を供給していく。

図1 古典的な風車。羽根の数が多い

 ところが、20世紀に入ると、世界各地で風力発電よりも出力が大きな発電技術が導入された結果、風力発電はデンマークと、当時開拓が進んでおり、系統接続ができなかった米国西部にのみ残った。

 風車の理論研究は各地に広まり、1915年には英国のランチェスター(Frederick W. Lanchester)が風の持つエネルギーのうち、最大59.3%を回転力に変換できるという理論を提出、ドイツやロシアでも研究が続いた。

 しかし、1990年代に再生可能エネルギーの旗手として風力発電が見直されるまでは、デンマーク以外の地域で実用的な高速風車技術が改善されることはほとんどなかった。現在、デンマークの電力源に占める風力発電の比率は約20%、2020年にはこれを50%にまで高める政策目標を掲げている。

 このような歴史的な経緯があるため、世界に占めるデンマークの風車メーカーのシェアは高い。累積シェアのトップはデンマークVestas Wind Systems(26.7%、2008年)だ。

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