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» 2013年08月15日 09時00分 UPDATE

再生可能エネルギーの現実(4):地熱発電の3つの課題−自然公園、温泉、開発期間−

日本には火山が数多くあって、地下では膨大な蒸気と熱水が発生している。自然の地熱を利用して大量の電力を作ることが可能だ。ただし火山地域には国立・国定公園や温泉があるために、発電所を建設できる場所が限られてしまう。運転を開始するまでの開発期間も10年以上の長期になる。

[石田雅也,スマートジャパン]

連載第3回:「小水力発電の3つの課題」

 火山国である日本の地熱の資源量は、アメリカとインドネシアに次いで世界で第3位の規模がある。ところが実際に発電に利用しているのは2%程度に過ぎない。アメリカでは約10%の地熱を発電に利用していて、日本の5倍以上の発電量になっている。

 最大の問題は、国立公園や国定公園など国が指定する自然公園の中では発電所の建設が認められていないことだ(「自然公園法」による)。ほとんどの火山地域が自然公園に含まれているために、地熱発電に適した場所の多くが対象から外れてしまう。

 ただし最近になって規制が少しずつ緩和されてきた。国立・国定公園の中でも自然環境保護の重要度が高くない地域であれば、条件付きで発電所の建設が認められるようになった。これで地熱発電の導入可能量は一気に3倍以上に広がる(図1)。

chinetsu_potential.jpg 図1 地熱発電の導入可能量。出典:コスト等検証委員会

 それでも課題は残る。地熱発電を可能にするためには地下2000メートル程度まで掘り下げて、高温の熱水や蒸気を安定して噴出させなくてはならない。石油やガスを掘り出すのと同じような作業が必要になるわけだ。実際に発電所の運転を開始できるようになるまでには10年以上の歳月がかかる。

 さらに地中から大量の熱水をくみ上げることによって、温泉源に影響を与えてしまう可能性もある。事前の調査をもとに影響度を評価したうえで、地元の温泉組合などの理解を得ながら熱源の掘削を進めていく必要がある。

自然公園の景観を損ねてしまう

 国立公園や国定公園の対象区域で地熱発電所の建設を禁止しているのは当然のことと言える。発電所を建設することで周辺の自然環境に影響を及ぼすだけではなく、それ以前に景観を損ねてしまう問題が大きい。

 以前は自然公園の中でも地熱発電所の建設が認められていた。大分県と熊本県の県境にある日本で最大の「八丁原(はっちょうばる)発電所」は、阿蘇くじゅう国立公園の中で1977年から稼働している(図2)。現在の発電規模は110MW(メガワット)に達する。

hacchoubaru.jpg 図2 阿蘇くじゅう国立公園にある「八丁原発電所」。出典:九州電力

 山に囲まれた美しい高原の中で、巨大な発電設備が蒸気を噴き出している光景に違和感を覚える人は少なくないはずだ。同様のことは太陽光発電や風力発電の設備にも当てはまるが、特に地熱発電の場合は立地する場所が自然公園の周辺に限られるために、景観に対する影響度が大きくなってしまう。

 環境省が2012年3月に発表した新たな指針では、国立・国定公園の中でも景観を維持するうえで重要な区域を除いて、小規模な発電設備の建設を認めることになった。さらに公園の外から傾斜をつけて公園内の地下を掘削する工法をとれば、環境保全に影響を及ぼさないことを条件に容認する方針も付け加えた。あくまでも公園の景観を損ねないことが前提だ。

噴出試験を通じて温泉影響を分析

 実際に地熱発電所を建設するためには、地上だけではなく地下にも大掛かりな設備が必要になる。地中の深い場所から高温の蒸気や熱水をくみ上げるための「生産井(せいさんせい)」を何本か埋設し、発電に利用した後の低温の水を地中に戻すための「還元井(かんげんせい)」も用意する(図3)。

chinetsu_flow.jpg 図3 地熱の流れと発電所の設備。出典:環境省

 こうして地下水の枯渇を防ぐわけだが、ここで問題になるのは生産井がくみ上げる蒸気や熱水によって温泉源に影響を及ぼす場合があることだ。火山の周辺では良質の温泉が豊富に出るために、旅館をはじめ観光業の盛んな地域が多い。地熱発電の開発プロジェクトに対しては、温泉関係者などから反対運動が起こることは珍しくない。

 地熱発電の場合でも火力や風力と同様に、建設前には綿密な環境影響評価が義務づけられている。試験用の地熱井を掘って噴出試験を実施して、温泉源に影響がないことをデータで示す必要がある。

大規模な開発プロジェクトには11〜13年

 発電所の稼働までに必要な開発期間は地熱発電が最も長くかかる。地中の膨大なエネルギーを使って、安定した発電量を長年にわたって得られるものの、発電を開始できるまでにクリアしなくてはならない課題は数多くある。

 発電能力が3万kW(30MW)を超えるような大規模な地熱発電所を建設する場合には、建設を開始できるまでに8〜9年程度、そこから生産井や還元井を掘削して発電設備を完成させるまでに3〜4年程度を必要とするのが通常だ(図4)。合計すると開発期間は11〜13年にもなる。

chinetsu_kaihatsu.jpg 図4 地熱発電の開発プロセスと進行中の開発案件。出典:資源エネルギー庁

 開発に着手する前にも、地元の関係者に地熱発電がもたらすメリットを説明して理解を得る必要がある。さらに地中の探査を実施した結果、地熱のエネルギーが十分に得られなかったり、温泉源に影響を与えることが判明したりした場合には、開発を断念しなくてはならない。ほかの再生可能エネルギーと比べてリスクが大きいことは明らかである。

 それでも規制が緩和されたことで、石油会社などを中心に全国の有望な地域で大規模な開発プロジェクトが動き出している。順調に開発が進めば、2020年代の初めには新しい地熱発電所が数カ所で稼働する予定だ。さまざまな課題を克服して安定した電力源として定着するまでには、もうしばらく時間がかかる。

第5回:「バイオマス発電の3つの課題」

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