波の力で「小水力発電」、港湾の設備をそのまま使える自然エネルギー(1/2 ページ)

波は水の運動そのものであり、発電機と接続すればすぐにでも電力が得られるように見える。しかし、実用的なシステムを設計するには日本固有の条件も考えなければならない。関西電力が大阪市立大学と共同で進める調査を紹介する。

» 2013年09月11日 14時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 小さな船が波に揺られる様子や、岸に打ち寄せる大波を見れば、電力源として使えないだろうかという発想に至るのは自然だ。このような波の力を使った発電方式を「波力発電」と呼ぶ。海のエネルギーのなかでも、波力発電が最も初期から注目されている。しかし、なかなか実用化につながらない。なぜだろうか。

 「洋上に波力発電所を建設しようとすると大規模な工事が必要になり、経済性に課題がある。さらに日本は船舶の往来がとても多く、航行の安全性を損なう設備を洋上に設置しにくい」(大阪市立大学大学院工学研究科教授で都市系専攻の重松孝昌氏)。厳しい気象条件に耐えることや送電コストなどを考えても洋上波力発電には困難がつきまとう。

 それでは波力発電に未来がないということなのか。そうではない。「港湾には必ずコンクリートの構造物がある。今後10年から20年は既設構造物のリニューアル工事が多くなる。その際、波力発電で新しい価値を付加できる」(同氏)。自然海岸を破壊することなく、既存の設備と組み合わせて徐々に発電所へ変えていくという発想だ。

図1 スリット式防波堤の構造。出典:関西電力

 港湾の構造物の中でも重松氏が特に注目するのが、「スリット式防波堤」だ(図1)。スリット式防波堤とは、2枚の「壁」からできた防波堤の一種。海側の壁には縦方向に細長い穴(スリット)が空いており、内側の壁と外側の壁の間は遊水室となっており海水がたまっている。波がスリットを通過する際に渦ができ、効果的に波の力を削ぐ(消波する)ことができる。構造が単純であるため、建設コストも安く、国内だけで総延長1200km以上も設置されている。

 波を渦に変えて消波するということは、ここに水車を置けば電力を取り出せるはずだ。12分の1模型による実験から得られた2011年時点の試算では、国内のスリット式防波堤の総延長距離のうち、50%に発電機を取り付けることができれば、約50万kWの出力が得られるという。「水車1基当たりの出力は小さい。いわば(地域で使う)小電力発電の一種だといえる」(同氏)。陸上でダム式の大型水力発電所以外にも、農業用水などを利用した小水力発電が役立っているのと同じ構図だ。

 重松氏が研究中の水車は「サボニウス型水車」*1)と呼ばれるタイプ(図2)。回転軸方向に複数の円筒状の水車が取り付けられており、羽根に水が当たって回るというよりも水車内部の「水路」を水が通過することで回転するイメージだ。ただし、最も効率が高い水車ではないという。それにもかかわらずサボニウス型水車を選んだ理由は、水の流れる方向によらず、一定方向に回転するためだ。海水がスリットに出入りするように動いても安定して駆動することになり、適切な水車だといえる。

*1) フィンランド人の建築家で発明家でもあったSigurd Savoniusが1922年に風車として開発した構造。円筒を縦に割り、ずらして中心に回転軸を付けた形である。抗力を利用して回転するため、風車として使うと回転数が高くなることはない。弱い風力を利用した換気装置として世界中で広く使われている。

図2 サボニウス水車の構造(左)と発電システムの想定図(右)。出典:大阪市立大学
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