「グリーンベイ」構想で東京の先を走る、湾岸に広がるメガソーラー群エネルギー列島2013年版(27)大阪

関西の産業の一大拠点になっているのが大阪湾岸地域だ。さまざまな開発計画が進む中で、メガソーラーを中心に大規模な再生可能エネルギーの導入プロジェクトが続々と始まっている。環境重視の産業を湾岸に展開する「グリーンベイ」の実現に向けて、東京よりも早く大阪が走り出した。

» 2013年10月01日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 今から4年前の2009年に、国土交通省が中心になって「グリーンベイ・大阪湾」の構想を発表した(図1)。太陽光パネルや燃料電池の製造拠点が集まる湾岸地域の立地を生かして、太陽光発電所などを擁する環境重視の一大産業エリアへ発展させる計画だ。

図1 「グリーンベイ・大阪湾」の展開構想(2009年時点、画像をクリックすると拡大)。出典:国土交通省

 この構想をもとに、中核になる大阪市と堺市で再生可能エネルギーの導入プロジェクトが急速に広がってきた。湾岸に数多く残っている広大な未利用地を活用して、メガソーラーの建設が活発に進んでいる。

 進行中の計画で最も規模が大きいのは「大阪ひかりの森プロジェクト」である。大阪市が運営する廃棄物埋立処分場の15万平方メートルを使って10MW(メガワット)のメガソーラーを建設中だ(図2)。2013年10月に完成する予定で、年間の発電量は一般家庭3200世帯分の電力使用量になる。

図2 「大阪ひかりの森プロジェクト」のメガソーラー建設予定地。出典:住友商事

 建設予定地は一見すると空き地だが、今後も埋立処分場として使い続ける必要があり、他の目的に利用することが難しかった。大阪市の公募に対して三井住友グループを中核とする企業連合がメガソーラーを提案して建設が始まった。

 同じ湾岸地域のプロジェクトとしては、関西国際空港の中に建設するメガソーラーも規模が大きい。長さが4000メートルある「B滑走路」に沿って、細長い用地に太陽光パネルを設置する。航空機の運行に影響を与えないように、太陽光が反射してもまぶしくないタイプのパネルを採用することにした(図3)。

図3 「関西国際空港」の中に建設するメガソーラーの完成イメージ。出典:新関西国際空港ほか

 空港内の貨物施設の屋上なども対象に加えて、パネルの設置枚数は合計で7万2000枚に達する。全体の発電規模では大阪ひかりの森を上回る11.6MWになる。年間の発電量は1200万kWhを見込んでいて、4100世帯分の使用量に相当する電力を供給することができる。運転開始は2014年の初めを予定している。

 関西国際空港に関連するプロジェクトは、ほかにもある。空港の拡張工事の際に土砂の採取に使った跡地で、2つのメガソーラーが2013年に入ってから運転を開始した。1つは3月に稼働した2.7MWの「シャープ多奈川メガソーラー」、もう1つは10MWの規模で9月に稼働したばかりの「岬太陽光発電所」(図4)である。関西電力の「堺太陽光発電所」(10MW)と並ぶ関西最大のメガソーラーが動き始めた。

図4 「岬太陽光発電所」の全景。出典:ユーラスエナジーホールディングス

 この一帯は大阪湾岸の中でも和歌山県に隣接する南部にあって、日照時間が長い。太陽光発電に適した立地を生かして、大阪府みずからもメガソーラーの事業化に乗り出している。空港に近い泉南市にある下水処理場の「南部水みらいセンター」で2013年9月からメガソーラーの運転を開始した。

 センター内の敷地に約8000枚の太陽光パネルを設置したもので、2MWの発電能力がある。平常時には電力会社に売電する一方、災害時には下水処理施設の非常用電源としても利用できるようになっている(図5)。

図5 「南部水みらいセンター」のメガソーラー。出典:大阪府都市整備部

 大阪府は同様の下水処理場を湾岸の北部と中部でも運営していて、それぞれに同じ規模の2MWのメガソーラーを建設する計画だ。3カ所のプロジェクトはすべてリース方式を採用する。民間企業に発電設備の建設・運営を委託して、大阪府はリース料を支払いながら売電収入を得る。安定した収入を見込める固定価格買取制度を活用して、リスクの少ない方法で事業を運営する。

 これまでに大阪府内で導入された再生可能エネルギーの中では圧倒的に太陽光発電が大きい(図6)。新たに運転を開始するメガソーラーを加えて、ますます導入量が拡大していく。太陽光発電の導入量では東京都が全国で7位に対して、面積の小さい大阪府は5位まで上昇しており、さらにランクアップが期待できる。

図6 大阪府の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 太陽光に続いて拡大を見込めるのがバイオマス発電である。「グリーンベイ・大阪湾」の構想で中核拠点のひとつに位置づけられている堺市では、2013年4月に大規模なバイオマス発電設備が稼働した。生ごみなどの廃棄物を処理するために新しく建設した「堺市クリーンセンター臨海工場」で実現したものである(図7)。

図7 「堺市クリーンセンター臨海工場」(上)、ごみの溶融処理設備(下、画像をクリックすると拡大)。出典:堺クリーンシステム

 この工場は1日あたり450トンの廃棄物を処理する能力があって、焼却の際に発生する大量の廃熱を利用して最大13.5MWにのぼる電力を供給可能だ。発電に利用した後の排ガスには硫黄酸化物などが含まれているが、バグフィルターと呼ぶ設備を使って収集・除去することができる。

 バグフィルターは石炭を使った火力発電所でも導入されるようになった設備で、汚染物質を排出しない火力発電所を実現するための重要な仕組みである。廃棄物を活用したバイオマス発電の分野でも、大阪湾岸のグリーンベイ構想が一歩先を進み始めた。

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