石炭火力発電が瀬戸内海の工業地帯で進化、バイオマスと太陽光も後押しエネルギー列島2013年版(34)広島

瀬戸内海に面した広島県の工業地帯では、最先端の技術を駆使した石炭火力発電所の建設が2カ所で進行中だ。温室効果ガスの排出を抑える試みで、国内のエネルギー政策を転換する発電方法として期待がかかる。同じ沿岸地域ではバイオマスやメガソーラーの取り組みも広がってきた。

» 2013年11月19日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 これからの日本の電力源が火力発電を主力にすることは確実な状況で、その多くは天然ガスと石炭でまかなう。発電コストは石炭が圧倒的に安く、天然ガスの3分の1程度、石油に比べると4分の1以下になる。最大の問題はCO2の排出量が多い点だが、その解決に向けた先進的な取り組みが広島県内の2つの発電所で進んでいる。

 1つ目の試みは瀬戸内海に浮かぶ大崎上島(おおさきかみじま)にある中国電力の「大崎発電所」の構内で始まった(図1)。世界でも最先端の石炭火力発電設備を実証試験する「大崎クールジェンプロジェクト」である。2013年3月に発電設備の建設を開始したところで、運転開始は4年後の2017年3月を予定している。

図1 「大崎発電所」の全景と「大崎クールジェンプロジェクト」の発電設備。出典:大崎クールジェン

 このプロジェクトでは酸素を使って石炭をガス化してから発電する「酸素吹石炭ガス化複合発電」に挑む。通常の石炭火力発電と比べて発電効率が5ポイント以上も高くなる最新技術だ。発電能力は17万kWを想定している。

 計画は3段階に分かれていて、まず第1ステップではガス化によって発電効率を引き上げ、CO2の排出量を低減する。続く第2ステップではCO2を分離・回収するシステムを導入する。最後の第3ステップではガスを燃焼した際に発生する水素を利用して、燃料電池で複合発電させる。最終段階では発電効率が55〜65%に達する見込みで、次世代の火力発電設備として最高レベルになる。

 もうひとつの石炭火力プロジェクトは、大崎上島の対面にある「竹原火力発電所」で準備が進んでいる(図2)。J-POWER(電源開発)が1967年に運転を開始した発電所だが、すでに最初の設備は40年以上も稼働を続けている。現在3基ある石炭火力発電設備のうち2基を最新型の1基に統合する計画だ。

図2 「竹原火力発電所」の全景と計画中の発電設備(画像をクリックすると拡大)。出典:J-POWER

 火力発電の効率を向上させる方法のひとつに、発電に使う蒸気を通常よりも高温・高圧にして出力を高める技術がある。「超々臨界圧」と呼ばれるもので、この方法でも従来の石炭火力と比べて発電効率を5ポイントくらい向上させることが可能になる。

 竹原発電所の新しい設備は超々臨界圧を採用して、60万kWの発電能力を発揮する一方、CO2排出量を従来よりも10%以上削減できる見込みだ。石炭に加えてバイオマス燃料を年間に4500トン混焼させてCO2排出量を抑制する。2014年6月の着工を予定していて、6年後の2020年9月に運転を開始する計画である。

 広島県は日本の石炭火力の未来を切り開く役割を担いながら、バイオマス発電の分野でも先進的に取り組んできた。体表的な例は廿日市市(はつかいちし)に本社がある建材メーカーのウッドワンに見ることができる。瀬戸内海に面した同社の工場では1987年からバイオマス発電を開始して、電力使用量の約半分をまかなっている(図3)。

図3 ウッドワン本社工場のバイオマス発電設備。出典:ウッドワン

 木質の建材を製造する過程で派生する木くずを活用して、5.9MW(メガワット)の電力を作り出す。さらに固定価格買取制度を適用できる5MWの発電設備を追加で導入することも決めた。運転開始は2015年春の予定で、年間に約7億円の売電収入を見込む。

 広島県の再生可能エネルギーの導入量はバイオマスが最も多い。熱利用では全国で第1位、発電量でも第6位を誇る(図4)。県内の各地で木質バイオマスや廃棄物を利用した発電設備が数多く稼働している。

図4 広島県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 最近では瀬戸内海の豊富な日射量を生かして太陽光発電も活発になってきた。沿岸部の工業地帯には広大な未利用地が残っていて、メガソーラーを建設するのに適した場所が多い。

 瀬戸内海に点在する島の中では面積が大きい因島(いんのしま)でも2013年9月にメガソーラーが稼働した。日立造船が工場に隣接する遊休地に建設したもので、約1万枚の太陽光パネルを設置して1.5MWの電力を供給することができる(図5)。年間の発電量は172万kWhを見込み、設備利用率では全国標準を1ポイント上回る13%を想定している。

図5 日立造船因島工場のメガソーラー。出典:日立造船

 因島の向かいにある三原市では、繊維メーカーの帝人がナイロン製糸工場の跡地に2MWのメガソーラーを建設して、2013年7月から発電を開始した。造船や繊維といった伝統的な産業は事業構造の変化によって工場の跡地などを遊休地として抱えている。メガソーラーは時流に合った有益な活用方法になる。

 遊休地の利用法に頭を悩ませてきたのは自治体も同様である。広島県みずからが中国電力グループと連携して、「地域還元型再生可能エネルギー導入事業」を推進している(図6)。第1弾として3カ所の県有地に合計6.6MWのメガソーラーを建設する計画で、すでに2カ所は2013年10月に運転を開始した。

図6 「地域還元型再生可能エネルギー導入事業」の実施スキーム。出典:広島県環境県民部

 パートナーになる中国電力グループは売電による収益の約3割を地域に還元することになっている。再生可能エネルギーの買取によって電力会社は通常の発電コストとの差額を電気料金に上乗せして徴収するため、一般の利用者の負担が増えていく。その負担増の一部をメガソーラーの収益の還元分でカバーする発想だ。

 再生可能エネルギーが拡大することによるデメリットを緩和するための施策で、全国の自治体の中でも先行した取り組みになる。

*電子ブックレット「エネルギー列島2013年版 −中国編−」をダウンロード

2015年版(34)広島:「瀬戸内海の島で太陽光発電、工場や家庭の廃棄物はバイオマスに」

2014年版(34)広島:「メガソーラーの収益を地域に還元、自治体と電力会社が手を結ぶ」

2012年版(34)広島:「中国山地の資源を再利用、廃棄物でバイオマスエネルギー」

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