第1回:風力発電の最新動向安全・安心・信頼できる風力発電所(1)

日本でも風力発電に対する期待が高まってきた。一方で風力発電所の事故も報告されている。すでに欧州では風力発電の普及が進んで、安全・安心・信頼できる風力発電所が一般的になっている。そうした状況をふまえながら、風力発電所の設置に求められる要件を解説していく。

» 2014年02月07日 15時00分 公開
[川口昇/UL Japan,スマートジャパン]

 日本では震災以降、原子力発電所の安全性が議論される中、自然エネルギーの普及が着実に進んできた。太陽光発電所に続き、特に風力発電所は今後大きく拡大すると期待されている。浮体式による洋上浮力発電のプロジェクトも国が主導して始まった。

 しかし一方では、2013年に入ってから風力発電所の事故が各種メディアで報じられており、安全な風力発電所の普及が望まれている。欧州では過去20年以上の期間を経て、風力発電所が普及してきた。欧州を中心に世界各国で、安全・安心・信頼できる風力発電の運営に向けた活動が浸透している。

 風力発電所の運転を開始し継続するためには、さまざまな準備が必要になる。まずは最近の状況から俯瞰していこう。

全世界で2015年までに67%の成長

 日本では小型風力発電に始まり、今後は洋上風力発電を含めて、各種の風力発電所の普及が期待されている。そうした中、残念ながら稼働中の風力発電所の事故が最近になって相次いで発生した。事故の原因としては、機械的な疲労、部品の強度、雷や強風に対する保護機能の問題などが報じられている。

 一方、欧州では安全な再生可能エネルギーの普及を目指して、1990年代から風力発電に関する専門機関がドイツなどで設立され、国際規格を作成してきた。現在では風力発電の認証機関が複数存在しており、国際規格に基づく試験認証を行うだけではなく、幅広い活動を実施している。

 風力発電は全世界で2015年までに67%の成長が見込まれている。その前提として安全・安心・信頼できる風力発電所の普及が社会の要請である。風力エネルギーの測定・評価に始まって、安全認証から性能評価までを網羅する包括的な取り組みが欠かせない。しかも風力発電所の運営には数多くのステークホルダーが関係してくる。

欧米で定着している標準的な導入プロセス

 風力発電機の製品・部品・素材メーカーは、製品安全の基準として国際規格のIEC 61400シリーズに適合させる必要がある。そのために発電機の部品評価、型式認証、さらには系統連系や製造監査などに関して、専門機関からアドバイスを受けるのが一般的だ。加えて、風力発電に関するリサーチ・研究を基にした知見が求められる。

 具体的には、発電所を設置する前の計画段階において、各関係者への情報提供が欠かせない。続いて、マイクロサイティングやサイトアセスメントによる風況調査・発電量予測、デューデリジェンスによる資産価値・リスク評価があり、工事完了後の完工検査、運転開始後の定期検査までが、欧米では標準的なプロセスとなっている(図1)。

図1 風力発電所の導入プロセス

日本でも試験・認証制度が整う

 発電事業の関係者は多岐にわたる。銀行、施工業者、電力会社、投資家、発電所の所有者、運営会社、保険業者などが含まれる。事故が発生した場合に備えた原因究明のための解析手法や、発電量の計画値と実績値の差異分析に基づく発電効率の改善提案なども必要になってくる。

 いよいよ日本でも、小型風力発電の規格であるJSWTA0001に基づく型式認証用の試験が開始された。2012年7月に開始された固定価格買取制度では、出力が20kW未満で、風車の直径が16メートル以下の設備が全量買取の対象となっており、JSWTA0001に基づく認証が必要である。この規格に基づく試験・認証制度を通じて、安全・安心・信頼できる風力発電所の普及に向けた体制が整ってきた。

 次回は風力発電所の事業性と安全性を評価するために欠かせない風況・海洋調査について説明する。

第2回:「風力発電の風況・海洋調査」

著者プロフィール

川口 昇(かわぐち のぼる)

UL Japanマーケティング部部長。電機メーカー在職中に通算10年間にわたり欧米の現地法人でマーケティング関連の業務に従事。その後アメリカの安全認証機関ULの日本法人であるUL Japanに勤務し、風力発電など再生可能エネルギー分野の規格開発支援、普及、政府工業会に関する活動を北米本社と連携して行う。


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