降水量が日本一の県で水力を再生、古い発電所とダムの増改築に着手エネルギー列島2013年版(45)宮崎

太陽がさんさんと降り注ぐイメージの強い宮崎県だが、実は年間の降水量が日本で最も多い。県内を流れる川には古くからダムと水力発電所が数多く造られてきた。老朽化が進む設備の改造や小水力発電の導入により、恵まれた水力エネルギーを最大限に電力へ転換していく。

» 2014年02月12日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 南国・宮崎は日照時間が長くて太陽光発電に向いているように思えるが、実際の導入量はさほど多くない。県内には森林が広がり、平坦な広い土地が少ないことが影響している。その一方で年間の降水量が全国で1、2を争うほど多く、川を流れる水量は豊富で、時には洪水も発生する。

 治水と発電を兼ねて、1950年代から主要な河川には大規模なダムと水力発電所が設けられてきた。すでに稼働から50年以上を経過する設備が増えてきたこともあり、リニューアルによって発電能力を増強する動きが活発になっている。

 その中でも最大のプロジェクトが「塚原発電所」の設備更新計画である。1938年に運転を開始して70年以上を経過したが、今なお4基の発電機を使って62.6MW(メガワット)の電力を供給している。落差が100メートルもあるダムからの水流を発電機に取り込む水路方式の設備である(図1)。

図1 「塚原発電所」の設備。出典:九州電力

 この大規模な水力発電所を5年間かけてリニューアルする。2014年5月に着工して、2019年4月から5月にかけて運転を開始する計画だ。新しい設備は2基の発電機を使って66.6MWの発電能力を発揮する。現在よりも4MW増えて、小水力発電を導入する以上の効果がある。

 老朽化した設備の更新を進める一方で、既存のダムの水流を生かした小水力発電の取り組みも続々と始まっている。大規模なダムに水をためて河川の水流を少なくしてしまうと、下流の自然環境に影響を与えてしまう。この弊害を解消する目的で、ダムから一定の水量を流し続ける「河川維持流量」を実施するのが一般的だ。ただし通常の水力発電設備とは別の経路で水を流すために、発電には利用していなかった。

 このような未利用の水流を生かした「維持流量発電」が最近になって全国各地で活発になり、特に宮崎県内で導入事例が急速に増えている。塚原発電所と同じ流域にある「上椎葉(かみしいば)ダム」では2013年5月に維持流量発電を開始した(図2)。

図2 「上椎葉維持流量発電所」の所在地と発電設備。出典:九州電力

 発電能力は330kW(0.33MW)と小さいものの、従来の水力発電所と違って常に水流を受けて発電を続けられる点がメリットだ。年間の発電量は240万kWhを見込んでいて、一般家庭で約700世帯分に相当する。発電設備の利用率(発電能力に対する実際の発電量)は83%にもなり、他の再生可能エネルギーを大きく上回る効率の良さを発揮する(太陽光発電では12%が標準)。

 九州電力は宮崎県内で別の流域のダムにも維持流量発電を展開している。上椎葉に続いて2013年10月に「一ツ瀬(ひとつせ)維持流量発電所」の運転を開始した(図3)。仕組みは上椎葉と同様で、従来からある水力発電所とは別に、ダムの近くに小規模の発電設備を設置する方式だ。発電能力は上椎葉と同じ330kWながら、年間の発電量はやや少ない220万kWhを想定している。

図3 「一ツ瀬維持流量発電所」の概要。出典:九州電力

 電力会社だけではなく、自治体が運営するダムでも維持流量発電の取り組みは始まっている。宮崎県の企業局が県の北部を流れる祝子川(ほうりがわ)に、従来からある発電所とは別に「祝子第二発電所」を2012年4月に稼働させた(図4)。発電能力は35kWと小さいが、県が実施した初めての維持流量発電で、今後は他のダムに展開することも期待できる。

図4 「祝子第二発電所」の設置状況。出典:宮崎県企業局

 宮崎県では小水力発電の導入量を増やしながら、今後は太陽光や風力をどこまで伸ばせるかが課題になる。これまでのところ小水力のほかに太陽熱やバイオマス発電の導入量が相対的に多いものの、全体の導入量は全国で31位にとどまっている(図5)。

図5 宮崎県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 ようやくメガソーラーの開発プロジェクトも進み始めた。温暖な日向灘に面した都農町(つのちょう)に、8.3MWのメガソーラーを建設する計画が動き出している。2015年の初めに運転を開始する予定で、年間の発電量は1000万kWhを見込む。一般家庭で2800世帯分の使用量に相当する。このプロジェクトをきっかけにして、沿岸部を中心にメガソーラーが拡大していく期待は大きい。

 風力発電では大規模な開発プロジェクトが県の南部で始まっている。九州電力グループが串間市に60MW級の風力発電所を建設する予定だ。2019年の運転開始を目指していて、現在は建設を前にした環境影響評価の段階にある。

 宮崎県は2013年3月に「新エネルギービジョン」を策定して、再生可能エネルギーを推進する姿勢を明確にした。太陽光から地熱まで5種類の発電設備を合わせて、2022年度に800MWを超える規模に拡大させる計画だ(図6)。この目標を達成できると、県全体で使用する電力のうち約15%を再生可能エネルギー(水力発電を除く)でカバーできるようになる。

 従来の水力発電で25%程度の電力を供給できることから、両方を合わせれば自然のエネルギーを利用した電力の自給率は40%まで高まる。火力や原子力に依存しない電力供給体制を構築できる点では、全国でもトップクラスに入る。

図6 宮崎県の再生可能エネルギーによる発電規模の目標(画像をクリックすると拡大)。出典:宮崎県農政水産部

*電子ブックレット「エネルギー列島2013年版 −九州・沖縄編 Part2−」をダウンロード

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