南の海に流れるエネルギーで「海洋温度差発電」キーワード解説

島国の日本の周辺には、さまざまな海洋エネルギーが存在する。その中で開発が進んでいるのは洋上風力と海洋温度差発電の2つだ。沖縄県の久米島では海洋温度差発電の実証設備が稼働中で、国の支援を受けて商用化に向かう。海水の温度が年間を通して安定していれば発電に利用できる。

» 2014年07月18日 15時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 自然界の熱を利用した発電方法には、さまざまな種類が開発されている。すでに実用化が進んでいるのは太陽熱発電と地熱発電である。それに続く未来の再生可能エネルギーとして注目を集めているのが、海水の持つ熱を生かした「海洋温度差発電」だ。

 海面に近い表層水の温度は高くて、海中の深い場所を流れる深層水の温度は低い。海洋温度差発電の実証設備が稼働している沖縄県・久米島の周辺海域では、表層水の温度は夏には30度近くになり、冬でも20度を超える。一方の深層水は海中の深いところほど温度が低く、1000メートル以下になると標準の4度まで下がる(図1)。

図1 久米島の周辺海域の海水温度。出典:日本海洋データセンター、久米島町役場

 このように温度差が大きい表層水と深層水を組み合わせると発電することができる。温度によって液体から気体に変わる沸点の低い物質を利用するのが一般的である。アンモニアが代表的で、圧力を加えた状態では表層水の熱で蒸発する。その蒸気でタービンを回して発電する仕組みだ(図2)。

図2 海洋温度差発電の仕組み。出典:横河電機ほか

 発電した後の蒸気を深層水で冷やすと元の液体に戻る。そして再び表層水で蒸発させて発電を繰り返す。こうした循環型のプロセスによって安定した電力を供給し続けることが可能になる。地熱発電に使われるバイナリー発電方式も原理は同じである。

 久米島の実証設備では、沸点の低い液体を気体に変えるための「蒸発器」と、気体から液体に戻すための「凝縮器」に工夫を凝らした。それぞれに熱伝導効率の高いチタン製のプレートを組み込んで、少量の表層水と深層水でも効率的に蒸発・凝縮できるようにしている(図3)。水量を少なくできれば発電コストが安くて済むからだ。

図3 久米島の実証設備の構成。出典:沖縄県商工労働部

 2013年4月に運転を開始した現在の実証設備は発電能力が50kWで、次のステップで商用レベルの1〜2MW(メガワット)の発電設備を開発する計画になっている。2014年度から政府が推進する海洋エネルギーの実証フィールドにも選ばれて、技術開発に弾みがついた。

 今のところ商用化に向けたプロジェクトは国内では久米島だけだが、日本の近海には海洋温度差発電のポテンシャルが広く分布している(図4)。特に四国から九州の太平洋側と沖縄諸島の周辺が有望だ。久米島で商用化に成功すれば、南国の島を中心に新たな再生可能エネルギーとして導入が進んでいく可能性は大きい。

図4 海洋温度差発電のポテンシャル分布。出典:NEDO

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