日本発の海洋発電技術、新構造採用で2020年には1kWh当たり20円が実現か自然エネルギー(1/2 ページ)

ジャパン マリンユナイテッドと佐賀大学は共同で没水型海洋温度差発電に向けた浮体構造の開発に成功した。台風など天候に変化に左右されにくく、安定した発電の基盤になる構造だという。海洋温度差発電と今回の構造の関係を解説する。

» 2013年09月10日 11時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 海から取り出すことが可能なエネルギーの潜在量は膨大だ。海洋エネルギーのうち、「潮汐」を除く全てが太陽エネルギーに源泉を持ち、尽きることがない。日本は周囲を海に囲まれており、海洋エネルギーの開発、実用化に向いた立地だ。

 だが、海洋エネルギーの実用化は世界的に他の再生可能エネルギーと比較して遅れている。水力や風力、バイオマス、太陽光・太陽熱、地熱といったエネルギー源に比べて、まだまだ研究開発が不足しているということだ(関連記事)。

 海洋エネルギーにもさまざまな種類がある。中でも他のエネルギーと性格が異なるのが「海洋温度差発電」だ。ほぼ全ての海洋エネルギー発電は、水の運動エネルギーを取り出すことで動く。海洋温度差発電だけは、温泉に取り付けるバイナリー発電のように、2種類の海水の温度差を利用する。

 発電の基本的な形はこうだ。海面に近い温水で装置内部の液体(作動媒体)を蒸発させてタービンを回し、その後、深海の冷水で作動媒体を液化する。こうすると、タービンの前後の圧力差が大きくなり、より効率良く発電できる。作動媒体は装置内部を循環するだけであり、外部には出てこない。

装置の形状が性能や特徴を左右する

 海洋温度差発電装置をどのように設置するか、複数の方式がある。歴史上最初に登場したのが陸上設置型だ。この構造は取水管が長くなり、海水くみ上げに必要な動力が大きくなることが欠点だ。ただし、陸上に主要な構造物を作ることから既存の設計、建造技術を利用でき、補修もたやすい。国内では沖縄本島の西に浮かぶ久米島の設備がこの式を採用している(関連記事)。

 海上設置型は陸上設置型と逆の特徴を持つ。土地(用地)が不要であること、海水のくみ上げや温度損失を少なくできることが有利だ。発電所の構造物の建造や固定、送電ケーブルでは不利になる。

 海上設置型のうち、現在実用化が進んでいるのが「スパー型」だ。ほとんどの装置が海面上にある。海上に浮かぶ「やぐら」を海底に係留した構造であり、石油プラットフォームなどで広く使われている構造だ。海洋温度差発電で先行する米国企業が採用している(関連記事)。

 もう1つの構造が没水型だ。ほとんどの部分が海面下にあり、水に浮いて、先端だけが海面上に見えている形だ。最大の特徴が巨大な構造物であっても安定性がよいことだ。海表面の波風の影響を受けず、台風による高波を受けても動作可能だ。

 没水型装置の安定性には逸話がある。植物プランクトンが必要とするミネラル分を豊富に含む海洋深層水を海面までくみ上げ、海面近くで放出し、漁業に役立てようとする海洋肥沃化装置の実証実験機「拓海」だ。深海の水をくみ上げるという点では、海洋温度差発電と同じである。拓海の開発では今回の主役であるジャパン マリンユナイテッドの前身の企業が参加している。

 拓海の実証実験は、2000年以降、5年計画でマリノフォーラム21が実施した。平塚沖約25kmの相模湾に設置された拓海は細長く、最大直径16.8m、垂直方向の長さは213mだった。このうち、海面上の高さは8m。水深980mの地点で、係留は1カ所のみ。実証実験期間中に台風の直撃を5回受けたにもかかわらず、1日約10万トンの海洋深層水をくみ上げ続けた。いかに構造が安定していたかということだ。

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