小水力の市場広げる改良水車、効率95%を狙う自然エネルギー

東北小水力は芦野工業と協力し、効率が95%と高く、既存メーカー品よりも低コストをうたう小水力発電用水車を、2017年3月までに開発する。未開発適地の開拓や既存設備の改修を狙う。原発13基分の電力を生み出す取り組みの第1歩ともいえる。

» 2014年09月18日 13時50分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 「小水力発電で世界最高効率となる95%の水車を2017年3月までに開発し、低コストで供給したい」(東北小水力)。

 同社の問題意識は2つある。第1に小水力発電に向く未開発適地が国内に1330万kW分も残されていることだ。これは大型原子力発電所13基分に相当する。小水力発電は長期間、比較的低い管理・運用コストで発電できる。出力に季節変動はあるものの、1日のうちで激しく変化することはない。系統安定化に役立ち、理想的な電力源ということができる。他の再生可能エネルギー同様、国産のエネルギー源であり、エネルギーセキュリティにも役立つ。

 第2に現在稼働している1900カ所の水力発電所のうち、同社が狙う規模である出力1万kW未満の設備が1400カ所あること。このうち半数が稼働開始後60年以上経過しており、設備の改修に役立つ改良型水車が必要だ。2030年には全体の7割以上が60年を超えるため、改修市場が拡大していく傾向にある。

 新規市場を開拓し、設備の改修に対応するには高効率で低コストな水車が必要になる(関連記事)。新水車を開発するという同社の取り組みの理由だ。

設計と製造で優位に立つ

 秋田県に拠点を置く東北小水力は2014年7月、山形県の芦野工業と「高効率フランシス水車の研究・開発」について共同研究契約を締結、8月には研究・開発の内容を発表、今後は自社製のフランシス水車を用いた小水力発電所の着工に入る。

 フランシス水車は国内で最も多く採用されている水車(羽根車、ランナー)の方式(図1)。ドーナツ型の形状を採り、円周の外側360度から水が流れ込み、中央の穴から抜けることで回転する。水の運動エネルギーと圧力の両方を利用する効率のよい水車だ。

図1 フランシス水車と発電機(左)と羽根車(右)一般的な形状 出典:東北小水力

 「当社の強みは流体解析ソフトウェアを活用した設計手法にある。しかし、実機を製造した経験がないため、35年にわたって数百の設計開発・製造・施工・保守の実績をもつ芦野工業と組んだ。当社が設計した水車の試作モデルを芦野工業の水槽で検証し、性能を確かめていく」(東北小水力)。開発完了後は両社のブランドでそれぞれ水車を販売する形だ。「最高出力のものでなくても優位性があると考えている。当社と芦野工業は開発中のフランシス水車も順次顧客に提供していきたい」(同社)。

 「現在芦野工業が製造している水車の効率は90〜91%。重電メーカーが大規模に製造している水車の効率は95%だ。技術開発が難しいため、他メーカーの水車改良は頭打ちだと考えている。水車は落差や水量など顧客の条件によって設計が異なる。大量生産品ではなく、一品一様だ。重電メーカーよりも低コストに水車を設計・製造できると考えており、当社や芦野工業の製品に競争力が生まれる」(東北小水力)。

 現在の水車の設計では試作品を大量に作って性能を確かめ、設計を改良するという手法が残っている。東北小水力はCFD(三次元流れ解析)などの流体解析ソフトウェアを用いて、水の流れを乱さず、エネルギーを効率良く取り出すことが可能な羽根の形状や厚さを設計できるという。試作経費や開発に要する時間を節減でき、開発コストを抑えることができる。

ため池で小水力発電

図2 秋田県美郷町と発電所の位置

 東北小水力は水車の最適設計を進めるとともに、自社のフランシス水車を利用した発電事業も進める(図2)。「仏沢ため池」(秋田県美郷町金沢東根、14ha)に出力199kW(有効落差27m)の小水力発電機を設置し、年間97万1000kWhを得るというもの。

 2億5000万円を投資し、固定価格買取制度(FIT)を利用して年間3300万円を得る計画だ。「2014年10月に着工する。他にもう1つ案件があり、仏沢ため池かもう1つの案件が当社初の発電事業となる」(同社)。

 仏沢ため池の事業は、2015年4月の運転開始を目指す。今後、全国数十カ所への展開を目指すとした。

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