全国平均の2倍も雨が降る川、未利用の水力で300世帯分の電力を作る自然エネルギー

静岡県の中央を流れる大井川の上流には数多くの水力発電所がある。地形が急峻なうえに年間の降水量が全国平均の2倍近くにのぼり、豊富な水力エネルギーが存在する。中部電力は既設の水力発電所とは別に、同じダムから放流する「維持流量」を生かした小水力発電所を建設する。

» 2014年12月05日 13時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 大井川は標高3000メートルを超える南アルプスを源流に、山間部から平野部を通って太平洋まで、南北168キロメートルの距離を豊富な水量で流れる。その上流にあるダムの1つに、新しい小水力発電所が3年後の2017年度に運転を開始する予定だ(図1)。

図1 「新奥泉水力発電所」の位置。出典:中部電力

 中部電力が自社で運営する「奥泉(おくいずみ)ダム」の直下に、発電能力290kWの「新奥泉水力発電所」を建設する。高さが45メートルあるダムの堤体に水圧管路を設けて、下流に送り出す水力で発電する方式だ(図2)。年間の発電量は110万kWhを想定していて、一般家庭で約300世帯分の電力を供給することができる。

図2 小水力発電設備の設置イメージ。出典:中部電力

 この小水力発電所で利用する水流は「維持流量」と呼ばれるもので、川の下流の水質や環境を守るためにダムから常に放流している。従来は発電に利用していなかったが、最近になって新たな再生可能エネルギーとして全国各地で小水力発電に取り組む事例が広がってきた。中部電力も岐阜県を中心に維持流量を活用した小水力発電所を増やしている。

 新奥泉水力発電所を建設する大井川の上流には治水のために数多くのダムや堰堤(えんてい)があり、1930年代から水力発電が盛んに行われてきた(図3)。山間部を流れる上流は日本でも屈指の雨が多い地域で、全国平均(約1700ミリメートル)を大幅に上回る2400〜3000ミリメートルの降水量になる。

図3 大井川上流の主なダムや水力発電所。出典:国土交通省

 そうした多雨地帯にあって、中部電力の水力発電所では最大級の「奥泉発電所」が1956年から運転を続けている。奥泉ダムに貯めた大量の水を利用して、9万2000kWの電力を供給することができる。当初の出力は8万7000kWだったが、水量が豊富なことから2012年に5000kW引き上げた。

 ただしダムから発電所の放水口までの区間は川の水が少なくなるために、維持流量で水量を増やす必要がある。新奥泉水力発電所は放水口をダムの直下に設けて、維持流量に影響を及ぼさない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.