電力の自由化でエネルギー産業は激変、ガスと石油を加えて水平連携へ2015年の電力メガトレンド(3)(1/2 ページ)

2015年4月に始まる電力システム改革を機に、エネルギー産業は史上最大の転換期に突入する。電力会社の地域独占体制が崩れる一方で、ガス市場の開放と石油市場の縮小、水素エネルギーの拡大が進み、覇権争いは一気に激しさを増す。多様なエネルギーを安価に供給できる総合力の勝負になる。

» 2015年01月07日 11時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

連載第2回:「水素エネルギー元年、街も工場も脱・石油が加速」

 これから東京オリンピック・パラリンピックが始まる2020年までの6年間に、日本のエネルギー産業の構造は大きく変わっていく。全体で約20兆円にのぼる電力の市場を2016年4月から全面的に自由化するのに続いて、その1年後にはガスの市場も開放する見込みだ。新たに再生可能エネルギーや水素エネルギーによる発電事業が広がり、石油会社をはじめ成熟産業の大手が巨大な電力市場に参入を開始した(図1)。

図1 電力市場に参入する主な産業の強み

 電力市場の自由化は企業向けを対象に2000年から始まったが、すでに15年を経過した現在でも全国で10社の電力会社が95%のシェアを握っている。そうした独占体制を抜本的に変える「電力システム改革」が2015年4月から3段階で進んでいく(図2)。遅くとも2020年までには電力会社を解体して、全国各地で多数の事業者が発電と小売の自由競争を繰り広げる状態になる。

図2 電力システム改革の実施スケジュール(画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

自治体を中心に広がる「脱・電力会社」の動き

 電力システム改革で大きな節目になるのは、2016年4月に実施する小売全面自由化である。これまで電力会社にしか小売が認められなかった家庭向けの市場を開放する。市場規模は7.5兆円で、契約者数は8400万を超える(図3)。すでに2014年末の時点で468社が新電力の登録を済ませて、家庭を対象にした小売事業の準備を進めている。

図3 電力市場の規模と契約者数。出典:資源エネルギー庁

 自由化の波は企業向けの市場にも拡大していく。発電事業者が増える結果、小売事業者は販売する電力を確保しやすくなるからだ。これまでは企業向けに大量の電力を供給できなかった小売事業者の多くが、電力会社以外の発電事業者から電力を安く調達できるようになる。

 電力会社から新電力へ契約を切り替える動きは自治体を中心に始まっている。しかも小売だけではなくて発電の領域にまで「脱・電力会社」の輪が広がりつつある。例えば新潟県は県営の水力発電所11カ所の電力を2015年4月から新電力の2社へ供給することを決めた。従来の供給先である東北電力と比べて2倍以上の単価で売電できるためで、一般家庭で15万世帯分に相当する大量の電力の供給契約を切り替える。

地域を越えて電力会社とガス会社が連携

 もちろん電力会社も手をこまぬいてはいられない。電力システム改革をにらんで積極的に動き出したのが最大手の東京電力である。発電事業では中部電力と「包括的アライアンス」を組んで、燃料の調達から火力発電所の新設・リプレースまでを共同で展開する計画だ(図4)。火力発電のコストを引き下げて新電力との価格競争に備える。

図4 東京電力と中部電力の「包括的アライアンス」の事業対象範囲。出典:東京電力、中部電力

 さらに東京電力は小売事業でも新しい方向性を打ち出している。電力に加えてガスの販売を拡大するのと同時に、設備の建設・運用・改修までを手がける「トータルエネルギーソリューション」で競争力を発揮する戦略だ(図5)。ガスの市場も電力から1年遅れて2017年4月に小売を全面自由化する見通しである。電力とガスを組み合わせた割安なセットメニューをそろえて家庭と企業の両方に攻勢をかけることが可能になる。

図5 東京電力の「トータルエネルギーソリューション」の展開イメージ。出典:東京電力

 同様の取り組みは2番手の関西電力や3番手の中部電力も準備を進めている。関西電力は大市場の首都圏で小売事業を拡大する計画に合わせて、電力とガスの供給力を高めるために東京ガスと提携する可能性がある。その一方では中部電力が大阪ガスと共同でLNG(液化天然ガス)の海外調達先を拡大中だ。

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