離島の風力発電に厳しい規制、事業者に計画の変更か中止を求める法制度・規制

長崎県の五島列島で進められている風力発電所の建設プロジェクトに対して、環境省は計画の変更か中止を求める意見書を提出した。西海国立公園の中にある宇久島に50基の大型風車を建設する計画だが、近隣住民の生活環境をはじめ動植物や景観に対する影響の大きさを指摘している。

» 2015年01月20日 13時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 環境省は1月16日に「宇久島風力発電事業」に対する意見書を経済産業大臣に提出した。宇久島(うくじま)は長崎県の西部に広がる五島列島の最北端にある島で、西海国立公園に含まれている(図1)。

図1 宇久島の場所。出典:フォトボルト・デベロップメント・パートナーズほか

 この自然に恵まれた島に大型の風車50基を建設する計画が2013年に始まり、建設に先立つ環境影響評価の手続きが進められてきた。1基あたりの発電能力は2MW(メガワット)を想定していて、50基を合計すると100MWに達する国内で最大級の風力発電プロジェクトである。

 現在は4段階ある事前手続きのうち、3番目の「環境影響評価準備書」の検討段階にある(図2)。事業者が策定した具体的な計画に対する環境省や自治体などの意見をふまえて、経済産業大臣から事業者に勧告を出す途上にある。この計画には当初から住民の反発が強く、宇久島に隣接する小値賀島(おぢかじま)の町議会が2014年9月に長崎県知事に意見書を提出する動きもあった。

図2 環境影響評価の手続き(画像をクリックすると拡大)。出典:環境省

 環境省の意見書では、騒音・風車の影・動植物・景観の4点に関して強い懸念を表明している。それぞれに対する環境保全措置として、風車の配置の変更や設置の取りやめを求める厳しい意見を盛り込んだ。低騒音型の風力発電設備を採用するほか、稼働時間の調整を検討することも対策の中に加えるなど、事業計画の抜本的な変更を要求する内容になっている。

 景観の点では、国と県が進めている「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」を世界文化遺産に登録する取り組みにも影響を与える可能性がある。この文化遺産の構成資産の1つが宇久島に隣接する小値賀島に存在するためだ(図3、図4)。

図3 「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の構成資産。出典:文化庁
図4 構成資産に含まれる「野崎島の野首・舟森集落跡」(小値賀島)。出典:文化庁

 経済産業大臣は環境省などの意見をふまえて、事業者のグリーンパワーと日本風力開発に対して計画の変更を勧告する見通しである。2社の事業者は十分な対策を盛り込んだ「環境影響評価書」を策定して最終段階の手続きに入る必要があるが、当初の計画どおりに50基の大型風車を設置することは難しい状況だ。

 建設予定地の宇久島では、ドイツの発電事業者のフォトボルト・デベロップメント・パートナーズ社が太陽光で430MWの発電設備を建設する計画を進めている。太陽光発電は風力発電に比べると環境負荷が小さいために、環境影響評価の手続きは不要である。災害時の電力供給の点からも離島に再生可能エネルギーを増やしていく必要があり、地域住民に受け入れられる導入方法が問われる局面を迎えている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.