小さい落差と少ない水量でも発電できる、農業用水路で80世帯分の電力に自然エネルギー(1/2 ページ)

岩手県の北部を流れる農業用水路で4月に新しい小水力発電所が運転を開始する予定だ。用水路の途中にある落差を利用して、最大37kWの電力を供給することができる。太陽光発電や地熱発電で実績のある民間の事業者が県から水利権の使用許可を受けて再生可能エネルギーの導入に取り組む。

» 2016年01月14日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 小水力発電所を建設する場所は、岩手県の北西部に広がる八幡平市(はちまんたいし)を流れる農業用水路である(図1)。岩手県が終戦直後の1949年に造成した用水路で、60年以上にわたって使われている。この用水路の床面を固めるために設けられた落差工(らくさこう)を利用して小水力発電所の建設工事が進んでいる。

図1 小水力発電所を建設する「後藤川幹線水路」(左)、発電設備の設置イメージ(右)。出典:洸陽電機

 落差工の横に水車発電機を設置して、用水路の上流から導水管を通して水を引き込む方式だ。発電後の水は用水路に戻すため、下流の水量は変わらない。用水路のうち水量が減る区間は短く、自然環境に対する影響も小さい。こうした発電方式を「従属発電」と呼ぶ(図2)。水力発電を実施するにあたっては、国や自治体から水利権の使用許可を得る必要があるが、従属発電の場合は自治体レベルで手続きが簡潔に済むメリットがある。

図2 水利権使用許可の手続きが簡単な「従属発電」の実施例。出典:国土交通省

 八幡平市に建設中の小水力発電所は利用できる水流の落差が6.7メートルで、水量は最大で毎秒0.91立方メートルある。発電能力は37kW(キロワット)になり、年間の発電量は30万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の電力使用量(年間3600kWh)に換算して80世帯分に相当する。運転開始は2016年4月の予定だ。発電した電力は全量を固定価格買取制度で売電する。

 発電所を建設・運営するのは兵庫県に本社がある洸陽電機である。小水力用の発電機は富山県の北陸精機が開発した「パワーアルキメデス」を導入する(図3)。この発電機は垂直軸のスクリュー水車を内蔵していて、上から下へ流れ落ちる水の重力で水車が回転する構造になっている。落差が小さくて水量も少ない場所に適している。

図3 小水力発電機「パワーアルキメデス」の外観(左)と設置例(右)。出典:北陸精機
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