島の海洋エネルギーで燃料電池船も走る、温泉地には地熱バイナリー発電エネルギー列島2015年版(42)長崎(2/3 ページ)

» 2016年02月09日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

ホテルや温泉街に再生可能エネルギー

 再生可能エネルギーの先進的なプロジェクトは長崎県の本土側にも広がってきた。北部の佐世保市に立地するテーマパークの「ハウステンボス」では、2016年3月に開業予定のホテルに水素エネルギーを導入する。ユニークなコンセプトで注目を集めている「変なホテル」の中に、太陽光発電と水素を組み合わせたシステムを導入する計画だ(図5)。

図5 「変なホテル第二期棟」の完成イメージ(上)、水素エネルギー供給システムの構成(下)。出典:ハウステンボス、東芝

 東芝が開発した自立型の水素エネルギー供給システムを採用した。太陽光で発電した電力を使って水を電気分解して水素を製造することができる。水素はタンクに貯蔵したうえで、必要に応じて燃料電池に送り込んで再び電力と温水を作り出す。部屋数が72室のホテルでは、年間を通じて太陽光発電と水素で必要な電力と温水をまかなえる見込みだ。

 このほかにもハウステンボスでは独自の方式で再生可能エネルギーの導入量を増やしている。テーマパークに隣接する別荘地区に、太陽光と風力のハイブリッドシステムを導入した(図6)。2種類の再生可能エネルギーを組み合わせることで、天候の影響を受けにくいメリットがある。発電した電力は容量の大きい鉛蓄電池に貯めて、別荘を運営する管理センターの電力源に利用している。

図6 ハウステンボスの別荘地区に設置した太陽光と風力によるハイブリッド発電システム。出典:ハウステンボス・技術センター、九電工

 一方で県南部の温泉地では、バイナリー方式による地熱発電が始まった。雲仙市の海岸沿いに広がる小浜(おばま)温泉だ。2015年9月に「小浜温泉バイナリー発電所」が運転を開始した(図7)。発電能力は180kWで、年間に79万kwhの電力を供給することができる。一般家庭で220世帯分の使用量に相当する。

図7 「小浜温泉バイナリー発電所」の全景(上)と内部(下)。出典:洸陽電機

 バイナリー方式は低温の地熱でも発電できる点が特徴である。沸点の低い液体を100度以下の熱で蒸発させながらタービン発電機を回転させる(図8)。小浜温泉では100度前後の温泉水が源泉から大量に噴出する。その温泉水を源泉から引き込んで発電に利用している。発電に利用した後の温泉水は70度くらいまで温度が下がり、配管を通して近隣の旅館まで届ける仕組みだ。

図8 バイナリー発電設備の構成(実証実験時、画像をクリックすると拡大)。出典:小浜温泉エネルギー

 このプロジェクトは地元の温泉事業者が中心になって2011年に実証実験を開始したことに始まる。環境省の支援を受けてバイナリー方式の発電システムを導入したが、安定した発電量を得られずに事業化を果たせなかった。再生可能エネルギーの導入で実績がある兵庫県の洸陽電機が設備を受け継ぎ、改良を加えて安定稼働にこぎつけた。

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