地熱発電でトップを独走、太陽光やバイオマスを加えて自給率5割へエネルギー列島2015年版(44)大分(1/3 ページ)

大分県の地熱発電が活発に続いている。大規模な発電所の周辺では低温の地熱を利用したバイナリー発電所が拡大中だ。地熱を使って温度や湿度を制御できる農業ハウスの実証事業も始まった。工業地帯ではメガソーラーやバイオマス発電所が動き出し、県内のエネルギー自給率を上昇させる。

» 2016年02月23日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 温泉の湧出量が全国で最も多い「日本一のおんせん県」は地熱発電の導入量でも日本一を続けている。大分県の北西部に広がる九重町(ここのえまち)には、国内で最大の「八丁原(はっちょうばる)発電所」をはじめ大規模な地熱発電所が3カ所で運転中だ。

 加えて小規模な地熱発電所の建設が相次いでいる。八丁原発電所から山を1つ越えた九重町の菅原地区では、九州電力グループが「菅原バイナリー発電所」を2015年6月に稼働させた(図1)。

図1 「菅原バイナリー発電所」の建設地区と周辺の地熱発電所。出典:JOGMEC

 小規模とはいえ発電能力は5MW(メガワット)で、年間の発電量は3000万kWh(キロワット時)を想定している。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して8300世帯分に相当する。九重町の総世帯数(3900世帯)の2倍を上回る規模になる。

 この発電所では九重町が所有する地熱井(ちねつせい)から蒸気と熱水の供給を受けて発電に利用している。ただし蒸気と熱水の温度は100度前後しかなく、通常の地熱発電所が使う200度以上の蒸気のように直接タービンを回転させるだけのエネルギーはない。

 そこで100度以下の温度でも蒸発する液体(ペンタン、沸点36度)を使うバイナリー方式の発電設備を導入した(図2)。バイナリー方式の地熱発電所では国内で最大の発電能力を誇る。

図2 「菅原バイナリー発電所」の発電設備(左上)と上空から見た全景(右上)、発電事業のスキーム(下)。出典:九電みらいエナジー

 蒸発させた気体は発電後に空気で冷やして液体に戻せば繰り返し使うことができる。発電に利用した蒸気と熱水は地中に戻すことで地熱資源を枯渇させない。地熱エネルギーを再生可能にする取り組みの1つだ。

 同様のバイナリー発電所は「滝上(たきがみ)発電所」の近くでも建設中だ(図3)。滝上発電所は九州電力が九重町で運営する大規模な地熱発電所の1つで、発電に利用する蒸気を出光興産グループの「出光大分地熱」が供給している。

図3 「滝上発電所」の全景。出典:九州電力

 これまで滝上発電所では地下から噴出する蒸気と熱水を分離器にかけて、高温の蒸気だけを発電に使ってきた(図4)。残った熱水は利用しないで地中に戻していたが、バイナリー方式ならば温度の低い熱水でも発電に使うことができる。

図4 「滝上発電所」の設備構成(上)、地熱井(左下)、気水分離器(右下)。出典:九州電力

 新たに発電能力が5MWの「滝上バイナリー発電所」を建設中で、2016年3月に運転を開始する予定だ。年間の発電量は3100万kWhを想定している。一般家庭で8600世帯分に相当する。菅原地区と合わせて2カ所のバイナリー発電所が稼働すると、九重町内の家庭が消費する電力量の4倍以上を供給できるようになる。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.