日本の電気料金は原油の輸入価格が高騰した「第二次石油危機(オイルショック)」後の1980年代には現在よりも高い水準にあった。その後は標準メニューのほかに「選択約款」を可能にした1995年の「第一次制度改革」、さらに小売の部分自由化を開始した2000年の「第二次制度改革」を経て次第に下がっていった(図5)。
2008年の「リーマンショック」で化石燃料の輸入価格が一時的に高騰した期間を除くと、電気料金の低下傾向が長く続いた。しかし東日本大震災が発生した2011年から急上昇して、20年前の1990年代と同等の水準まで戻ってしまった。それでも2015年に入ると化石燃料の輸入価格が大幅に下落したことに加えて、新たに小売全面自由化による競争の進展で再び電気料金は安くなっていく見通しだ。
実は欧米の先進国では2000年前後に小売全面自由化を実施したものの、電気料金が安くならずに、むしろ上昇している(図6)。最大の理由は化石燃料の価格が高くなったことにあるが、国によっては競争の激化で事業者が減って電気料金の上昇を招いてしまったケースも見られる。
日本でも同様の問題が発生する懸念はあるが、その可能性は小さいだろう。1つには電力会社に対抗する小売電気事業者に有力企業が多く、資金力に加えて営業・技術・サービス面の競争力が高いからだ。みずから発電所を運営して供給力を確保している事業者も少なくない。
もう1つの要因は4年後の2020年4月1日に実施する発送電分離によって、電力会社は発電部門と小売部門を送配電部門から分離して独立採算で事業を運営しなくてはならない。発電部門が供給する電力の単価(発電料)が安い場合には、同等の条件で他の小売電気事業者も調達できるようになる(図7)。
さらに電力会社の小売部門は他社と同じ単価で送配電ネットワークを利用する必要がある。現在のように1つの電力会社の中でコストを配分して事業を運営することはできなくなる(図8)。その一方で送配電部門は国の規制を受けながら送配電ネットワークの単価(託送料)を決める必要があり、審査を通じて最大限のコスト削減を求められる。
日本の電力システムの改革は小売全面自由化で始まった第2段階に続いて、第3段階の発送電分離(送配電部門の法的分離)を2020年4月1日に実施することで本当の自由競争の状態になる(図9)。この時点で電力会社の小売部門に課せられた「経過措置約款」による認可料金は廃止されて、他の小売電気事業者と対等に自由料金メニューだけで競争に入る。
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