電気料金に影響する託送料金の見直し、電力の地産地消を促す体系に動き出す電力システム改革(69)(1/2 ページ)

2020年度に実施する発送電分離に向けて、送配電ネットワークの費用負担の見直しが始まった。新たに発電事業者にも負担を求める方向だが、送配電ネットワークの負荷が小さい分散型の発電設備などは負担率を低く抑える。懸念点の1つは原子力発電で、送配電の料金を上昇させる可能性がある。

» 2016年09月21日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

第68回:「送配電ネットワークの利用料、発電事業者も2020年度から負担へ」

 電力・ガス取引監視等委員会が「送配電網の維持・運用費用の負担の在り方検討ワーキンググループ」を9月16日に新設して、具体的な検討作業に着手した。送配電ネットワークの費用は2020年度に実施する発送電分離の後も、国の規制対象になる「託送料金」で回収する必要がある。託送料金は電気料金のベースになるため、適正な回収方法が市場競争の健全化に欠かせない。

 現在は小売電気事業者が送配電事業者(電力会社の送配電部門)に託送料金を支払う方法で、送配電ネットワークの費用を回収している(図1)。電力を送り出す側の発電事業者は費用を負担する必要がない。しかし自由化を機に、電力の供給を受ける側が一方的に費用を負担する現行の制度に問題が生じ始めている。

図1 託送料金の負担の構造(画像をクリックすると拡大)。出典:電力・ガス取引監視等委員会

 最大の問題点は全国各地で発電所の建設計画が増えて、地域によっては送配電ネットワークの増強が必要になっていることだ。ネットワークの整備にかかるコストは原則として送配電事業者が負担するため、発電所の新設に伴って託送料金の原価が増えていく。

 ただし発電所の立地が大都市などの需要地に近い場合には送配電ネットワークの整備コストは小さくて済む一方、遠い場合にはコストが大きくなる(図2)。発電所の立地が送配電ネットワークのコストに影響を与えるにもかかわらず、発電事業者はコストを気にしないで建設を進めることが可能な仕組みになっている。

図2 発電所の立地による送配電ネットワークの整備コスト。出典:電力・ガス取引監視等委員会

 この問題による託送料金の上昇を抑えるために、2020年度から発電事業者も送配電ネットワークの費用を負担する制度に変更する方針だ。制度の変更にあたって最も重要な検討項目は、発電事業者が負担する送配電ネットワークの費用の範囲を決めることにある。送配電ネットワークの費用は発電所から需要家までをつなぐ5種類の設備に分けて算出している(図3)。全体の約半分が送電、残り半分が配電にかかるコストである。

図3 送配電ネットワークの費用の対象(原価・単価は東京電力の例、画像をクリックすると拡大)。出典:電力・ガス取引監視等委員会

 配電のコストは引き続き小売電気事業者が負担するのが妥当なため、送電のコストをどのように配分するかを決める必要がある。現時点で委員会のワーキンググループが想定している案は3通りあって、どの方法を選ぶかによって発電事業者の負担率が大きく変わってくる(図4)。

図4 送配電ネットワークの費用負担案(画像をクリックすると案4も表示)。白抜きの番号は図3の費用。NW:ネットワーク、IRR:内部収益率。出典:電力・ガス取引監視等委員会

 第1の案は送電コストのうち、ネットワークを流れる電力の周波数を調整するための「アンシラリーサービス」に関連する費用だけを負担するケースだ。東京電力の場合を例にとると、送配電ネットワーク全体のコストの10%程度にあたる。発電事業者と小売電気事業者の双方で負担すれば5%ずつになる。これでは発電事業者の負担率が低く、制度を変更する意味が薄れる。

 第2と第3の案は基幹の変電所や送電線の建設・維持・運営に必要なコストまでを発電事業者が負担する方法だ。第3の案では送電コストの半分を発電事業者が負担することになり、負担率は送配電ネットワークのコスト全体の2割強になる。制度を変更する効果を十分に発揮するためには第2案か第3案が望ましい。

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