夏と冬の熱を地下の帯水層に溜めて空調に、大阪の中心部で35%の省エネ効果自然エネルギー(1/2 ページ)

JR大阪駅の北側に広がる再開発地域で、日本初の「帯水層蓄熱利用」の実証事業が10月に始まる。夏と冬に空調から排出する暖熱と冷熱を地下の帯水層に溜める方式で、季節を越えて冷暖房に利用する試みだ。空調のエネルギー消費量を35%削減できて、大都市のヒートアイランド現象も緩和できる。

» 2016年09月23日 07時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 日本で初めての「帯水層蓄熱利用」による空調システムを導入する場所は、JR梅田貨物駅の跡地に開発中の「うめきた2期区域」である(図1)。24万平方メートルに及ぶ跡地のうち未開発の17万平方メートルが対象で、区域全体に最先端のエネルギーシステムを導入する長期構想の先行プロジェクトとして実施する。

図1 「うめきた2期区域」の立地。出典:大阪市、都市再生機構

 「帯水層蓄熱利用」は地中熱を利用した省エネルギー技術の1つで、ビルなどの冷暖房で排出した熱を地下の浅い部分にある帯水層に溜めておく方式だ(図2)。冬には井戸からくみ上げた地下水を空調の排出熱で冷やして地下の帯水層に戻し、夏になったら冷たい地下水を井戸からくみ上げて冷房に利用する。

図2 「帯水層蓄熱利用」による空調のイメージ。出典:大阪市環境局

 と同時に別の井戸から夏の冷房の排熱で温めておいた地下水をくみ上げて暖房に利用する仕組みになっている(図3)。地中の温度は年間を通じて一定で、帯水層に溜めた熱が逃げにくい。このメリットを生かして地中に溜めた熱を有効に利用しながら、空調のエネルギー消費量を削減できる。さらに夏の冷房の排熱を空中に放出しないで済むことから、ヒートアイランド現象を緩和する効果も期待できる。

図3 帯水層蓄熱利用システムによる季節間蓄熱の仕組み(画像をクリックすると拡大)。出典:関西電力

 「うめきた2期区域」で10月に開始する実証事業では、2本1組の井戸を地下に掘る工事から着手する(図4)。実証に先立って開発した熱源専用の井戸を設置する計画で、大量の地下水をくみ上げたり戻したりできる揚水・還水の機能を備えたものになる。

図4 熱源専用井戸の完成イメージ。出典:関西電力

 この実証事業は環境省のCO2(二酸化炭素)排出削減対策の一環で取り組む。関西電力をはじめ民間企業5社を中心に、大阪市と大阪市立大学、岡山大学を加えた産学官の連携体制で実施する。2016年末までに全体の工事を完了して、2017年1月から実証運転を開始する予定だ。

 床面積が1万平方メートル以上のビルの空調に適用することを想定して、主に3つのテーマの技術的な検証を通じて実用化を目指す(図5)。開発した熱源専用井戸の性能を検証するほか、地下水を利用できる高性能のヒートポンプの制御技術、地盤沈下に対する影響評価や蓄熱効率の予測・改善技術も検証する。2018年3月末までに実証事業を終了して検証結果をまとめる。

図5 帯水層蓄熱利用の実証事業の全体イメージと検証項目(画像をクリックすると拡大)。出典:関西電力
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