新材料で安定性を6倍に改善、ペロブスカイト太陽電池の課題に光太陽光(1/2 ページ)

高い変換効率を持ち、製造コストも低いペロブスカイト太陽電池。次世代の太陽電池として実用化が期待されているが、劣化速度が早いなど、安定性に課題が残る。物質・材料研究機構(NIMS)はこの実用化課題であった劣化メカニズムの解明に成功し、新規材料を用いることで安定性を6倍に向上させることに成功した。

» 2016年10月12日 09時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 物質・材料研究機構(NIMS)エネルギー・環境材料研究拠点の韓礼元上席研究員らの研究グループは2016年10月6日、ペロブスカイト太陽電池のホール輸送層に用いる新規添加剤を開発し、安定性を大幅に向上させることに成功したと発表した。初期効率の85%まで劣化するのに要する時間を、従来の添加剤より6倍以上に伸ばすことができたという。ペロブスカイト太陽電池の実用化に貢献する成果としている。

 現在の太陽電池の主力はシリコン太陽電池や、CISなどの化合物半導体を用いた太陽電池だ。一方のペロブスカイト太陽電池は、現時点では研究開発の状況も初期段階にある“次世代太陽電池”だが、将来の実用化が期待されている。その理由は主に2つある。

 1つ目が研究開発の段階で、現在主流の多結晶シリコン太陽電池の変換効率を上回る成果が生まれている点。2つ目が製造コストの大幅な削減が見込める太陽電池であるという点だ。ペロブスカイト太陽電池は、高温や真空の製造工程を必要とせず、大半を常温常圧環境での塗布プロセスで製造できるというメリットがある。

 こうした背景から近年、世界中でペロブスカイト太陽電池の研究開発が活発に行われている。今回の成果を発表した韓礼元氏らNIMSの研究グループは1平方センチメートルのセルで2016年3月に変換効率18.2%を達成。海外ではより小さいセルで20%を突破する成果も発表されており、着実に変換効率の向上が進んでいる。

 一方、実用化に向けた課題として残されているのが、安定性の問題だ。酸化チタン、ペロブスカイト、ホール輸送層で構成された順セル構造のペロブスカイト太陽電池は高い変換効率を示すことが分かっている(図1)。しかし安定性が非常に低く、光照射のない状態でも劣化が進んでしまうという欠点がある。作製から200時間後には約3割も変換効率が低下するという。実用化に向けては、こうした低い安定性の原因究明と、新規材料開発による長期安定性の向上が求められていた。

図1 順セル構造のペロブスカイト太陽電池 出典:NIMS
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