人工光合成の新機軸、二酸化炭素からペットボトルを作れるか自然エネルギー(1/4 ページ)

人工光合成の目的は、二酸化炭素と水から有用な化合物を作り出すこと。研究目的は大きく2つある。1つは高い効率。もう1つは狙った物質を作ることだ。東芝は2個の炭素原子を含む有用物質を作る実験に成功。太陽電池から得た電力を用いて、二酸化炭素と水からペットボトルの原料物質を合成した。

» 2016年11月04日 11時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 年々、大気中の濃度が高まっていく二酸化炭素。2016年には濃度が400ppm(0.04%)を超えてしまった(図1)。

 二酸化炭素には地球温暖化を促進する作用があるため、各国がさまざまな対策を進めている。2016年11月には「気候変動枠組条約第21回締約国会議」(COP21)で採択された新しい法的枠組み「パリ協定」が発効する見込みであり、二酸化炭素を中心とする温暖化ガス削減がいよいよ加速しそうだ。

図1 大気中の二酸化炭素濃度 世界初の温室効果ガス観測専用の技術衛星「いぶき」による2016年10月時点の観測データ 出典:宇宙航空研究開発機構・国立環境研究所・環境省

 対策の1つが二酸化炭素の再利用だ。自然エネルギーを利用して、植物のように大気中の二酸化炭素から有用な物質を合成できないだろうか。人工光合成が工業的に可能になれば化石燃料の消費量を減らすことができる。バイオマス燃料のように正味の二酸化炭素排出量の削減につながるからだ。

炭素原子1個から2個の利用へ

 人工光合成には長い歴史があるものの、ここ数年で研究が大きく進んできた。現在は炭素原子1個を含む二酸化炭素1分子から、同じく炭素原子1個を含む物質を合成する研究が盛んだ。一酸化炭素(CO)やギ酸(HCOOH)、メタノール(CH3OH)などが得られている。植物の光合成効率と同等かそれを超えたエネルギー利用効率の水準に達した段階だ。

 効率向上以外の目的もある。植物のすばらしさは、ブドウ糖のように炭素原子を複数含む物質を合成できること。植物のように、さらに植物を超えて需要の多い有機物を選択的に合成できないだろうか。

 その先駆けとなる研究結果を2016年10月31日、東芝が発表した。太陽電池を用いて二酸化炭素と水からエチレングリコール(C2H6O2)を合成した研究だ。

 エチレングリコールは、組成式にあるように炭素原子を2つ含む物質。ペットボトルの2種類の原料のうちの1つであり*1)、さまざまな繊維の原料にもなる。自動車用の不凍液としても使われる有用な物質だ。

*1) エチレングリコールとテレフタル酸を脱水縮合することで、ペットボトルの原料であるポリエチレンテレフタラート(PET)が得られる。

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