地球規模で水素エネルギーに挑む、巨大企業13社が掲げる長期ビジョン:自然エネルギー(2/2 ページ)
水素が果たす役割の中でも、再生可能エネルギーの電力を有効に活用できる効果は大きい。たとえば太陽光発電が普及しているドイツでは、夏に余る電力を水素に転換して貯蔵することによって冬の電力需要をカバーできると、2050年には1700億kWh(キロワット時)以上の電力量を節約できる見通しだ(図4)。
図4 水素を活用した余剰電力の貯蔵・利用イメージ(2050年のドイツを想定)。青色は再生可能エネルギー発電量、緑色は電力需要、オレンジ色は水素による電力供給量。単位:ギガワット。出典:Hydrogen Council(EC 2050 scenarioなどをもとに作成)
水素を使うと大容量で長期間の貯蔵が可能なため、季節をまたいでCO2フリーのエネルギーを貯蔵する用途に最も向いている(図5)。現在のところ大容量の電力貯蔵システムで主流の揚水式水力発電は地理的な制約があるうえに、大規模なダムを2カ所に造る必要があるため環境破壊につながりかねない問題がある。
図5 電力貯蔵システムの適用範囲。右から順に、水素、揚水式水力、圧縮空気、蓄電池、フライホイール、スーパーキャパシタ。出典:Hydrogen Council(IEAの資料などをもとに作成)
水素協議会は自動車のCO2削減効果にも大きな期待をかける。1日の平均走行距離が100キロメートル以下の小型車両には電気自動車を適用する一方で、走行距離が100キロメートル以上の中大型車両には水素で走る燃料電池自動車を推奨する(図6)。車両の購入費と燃料費を合わせたトータルコストでは、燃料電池自動車が2025年までにハイブリッド自動車と同等になることを見込んでいる。
図6 燃料電池自動車・電気自動車によるCO2削減量(画像をクリックすると拡大)。円の大きさは車格ごとの年間エネルギー消費量(2013年)の相対比を表している。BEV:バッテリー電気自動車、FCEV:燃料電池電気自動車。出典:Hydrogen Council(自動車メーカーの資料をもとに作成)
燃料電池自動車の普及に欠かせない水素ステーションの設置数も2025年までに飛躍的に拡大する予測だ(図7)。ヨーロッパでは2000カ所以上に、アジアでも800カ所を超える。米国では自動車の低炭素化に率先して取り組むカリフォルニア州を中心に600カ所に増えていく。
図7 水素ステーション(HRS)の設置数の見通し(画像をクリックすると拡大)。濃い青色の地域は開発が活発に進み、薄い青色の地域は遅れる。出典:Hydrogen Council(H2 Mobilityの資料などをもとに作成)
ただし水素関連の投資は10年以上の長期間を必要とするものが多いため、各国の政府と産業界が連携して投資リスクの低減に取り組むことの重要性を水素協議会は指摘する。その好例として、日本が水素社会を構築する長期のロードマップを策定したことを挙げている。地球規模で水素エネルギーを普及させるうえで、日本政府と日本企業が果たす役割は大きい。
- 燃料電池とCO2フリー水素が全国へ、空港にホテルに競馬場にも
日本が世界をリードする水素エネルギーの導入プロジェクトが全国に拡大中だ。太陽光や風力で作った電力からCO2フリーの水素を製造して燃料電池で利用する取り組みをはじめ、家畜のふん尿や下水から水素を製造して地産地消する試みも始まる。水素社会が大都市と農山村の両方に広がっていく。
- 水素エネルギーの国家プロジェクト、2020年に低炭素な街づくりを実証
政府は東京オリンピック・パラリンピックで低炭素な水素社会を世界にアピールするために、各省庁が連携して技術開発を推進していく。中核を担う内閣府がCO2フリーの水素を輸送する「エネルギーキャリア」の構築を主導する一方、経済産業省や環境省などは水素の製造・利用面に注力する。
- 電車も燃料電池で走る時代、ドイツで2018年に運行開始
フランスの鉄道供給会社が世界で初めて燃料電池で走る電車を披露した。車両の屋根に燃料電池を搭載して、水素で発電した電力を蓄電池に充電しながら最長800キロメートルを走行できる。電化していない区間でディーゼル車に代わるエコな電車になる。2018年にドイツで運行を開始する予定だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.