FITの二歩先を行く、世界初の分散太陽光市場法制度・規制(2/2 ページ)

» 2017年03月10日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]
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市場価格に応じて自主的に「売電」

 太陽光の発電能力は時刻や季節によって規則的に変化し、天候によって不規則に変わる。電力需要も同じだ。

 このような状況に対応する手法は大きく2つある。全ての発電設備を中央で制御するというもの。もう1つは全てを分散処理することだ。

 deXが狙うのは後者。市場で電力が余っているとき(電力の価格が下がっているとき)は蓄電し、不足したとき(上がったとき)に放出する。これをdeXに参加する家庭や企業が、deXの提示する価格に従って個別に判断する。一方的に売電するFITとは全く異なる。

 このような処理にソフトウェア技術を利用し、設定に応じて自動処理することもdeXの特徴だ。手動で切り替える必要はない。各家庭や企業が能力に応じて発電し、必要に応じて電力を受け取る形になる。

 経済的なインセンティブもある。

 Blyth氏は発表資料の中で「エネルギー資源を接続して設定できる(deXのような)単一の市場があれば、発電・蓄電リソースによって生まれた系統に向かう電力の料金も自動的に支払うことができる。支払い手段は銀行口座やデジタルウォレットだ」と語っている。

家庭用電気料金が高騰

 オーストラリアは世界第5位の石炭埋蔵量・生産量を背景に、2400万人(2016年時点)の国民に対して石炭火力発電中心の電力を供給してきた。

 図A-1に、オーストラリアの電源構成の変化を示す。2004年時点は総発電量2298億キロワット時(kWh)のうち、石炭が77.7%、天然ガスが13.5%、再生可能エネルギーが8.2%を占めた。2014年には発電量が8%増加して2483億kWhへ成長。しかし石炭の比率は61.2%へと16.5ポイント低下。天然ガスが21.9%、再生可能エネルギーが14.9%へと伸びている。2015年時点でオーストラリアの太陽光の総導入量は世界10位だ*A-1)

*A-1) オーストラリア政府は2020年までに電力の23%を再生可能エネルギーでまかなう目標を示している。なお、州ごとに目標が異なっており、ビクトリア州は同20%、サウスオーストラリア州は同50%、タスマニア州は同100%である。

図A-1 オーストラリアの電源構成の変化 太陽光発電が再生可能エネルギーに占める割合は0.4%(2004年)から13.1%(2014年)へと急増している 出典:国際エネルギー機関(IEA)が公開したデータに基づき本誌が作成

 ところが家庭用電気料金は上昇する一方だ(図A-2)。2016年時点で、1kWh当たりの料金が全OECD加盟国中、最も高額だ。人口密度が国内で最も高いビクトリア州の料金は日本の1.5倍に達する*A-2)

 この結果、2002年以降1世帯当たりのエネルギー使用量が7%減少しているのもかかわらず、電力料金の支出が消費者物価指数の上昇を大きく上回ってしまった。

 FIT期間中であっても、売電せず自家消費した方が有利になり、太陽光や蓄電池の導入量が増えるという「皮肉な結果」が生じている。何が起こったのだろうか。

*A-2) オーストラリアは国土が広く、州によっては日本よりも安価だ。オーストラリア首都特別地域(ACT)における価格は日本の7割程度。なお、日本の家庭用電力料金はオーストラリア、英国、アイルランドに次いで高い。

図A-2 家庭用エネルギー価格の推移 黒線で示した電気料金が2008年以降、高騰していることが分かる 出典:Australian Energy Update 2016

 要因は複数ある。最大の要因は発電ではない。送配電ネットワークの保守・管理コストが急増したためだ。電力の自由化と再生可能エネルギーの大量導入が組み合わさって、価格決定メカニズムが変調を来したこともこれに環をかけた。2015年以降は保守・管理コストが落ち着いた結果、価格の上昇傾向は止まったものの、高止まりしている。

deXが必要なのはオーストラリアだけなのか

 deXの取り組みは不必要なインフラへの投資を避ける結果につながるというのがGreenSyncの狙いだ。

 現在のオーストラリアでは、太陽光発電設備や蓄電池などのリソースが、エネルギー市場へ積極的に参加することができない。電力の需給とはいわば無関係であり、系統の信頼性維持には役立っていない。

 分散型の再生可能エネルギーをdeXによって調整し、取引すること。これによってエネルギーミックスを進め、再生可能エネルギーを高い割合で用いた場合の信頼性や安定性、電力コストの課題を解決できる可能性がある。

 電力会社の指令に従って送電(売電)を停止する取り組みは短期的に必要だ。だが、deXのような取り組みを参考にして、その次を考える必要があるだろう。

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