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» 2018年08月01日 07時00分 公開

「電力会社の競合はAmazonやAppleになる」、異色の東電ベンチャーが描く電力ビジネスの未来 (1/3)

東電グループのベンチャー企業で、住宅の太陽光発電の電力を売買できる「P2P取引プラットフォーム」の実現を目指すTRENDE。フィンテック業界から転身し、同社の代表取締役に就いた妹尾氏にその事業戦略とビジョンを聞いた。

[陰山遼将,スマートジャパン]

 電力自由化や再生可能エネルギー普及を契機に、これまでの電力会社による中央集権型のエネルギー供給の仕組みを、分散型にシフトさせる取り組みが加速している。こうした中で、「P2P(ピア・ツー・ピア)」の仕組みを活用し、住宅で発電した太陽光発電などの電力を、自由に売買できるようにする――といった、将来の新しい電力ビジネスの在り方を模索する新電力やベンチャー企業も登場しはじめた。

 東京電力ホールディングス(東電HD)が2018年3月に100%出資で設立したTRENDE(トレンディ、東京都千代田区)もその1社だ(現在は東京電力ベンチャーズ傘下)。同社は小売電気事業者である低圧向けの「あしたでんき」を供給している。こう書くと一見、東京電力エナジーパートナーなど、グループ内企業と競合するのではないか――と思える。しかし、顧客の“カニバリ”は気にしないという。あくまでも、こうした電力小売り事業は「フェーズ1」であり、見据えるのは電力のP2P取引プラットフォームの構築と、それを活用した再生可能エネルギーの普及だ。その実現に向けて2018年8月1日から次の段階として、無償で戸建住宅に太陽光発電設備を設置する電気料金プラン「ほっとでんき」の提供を開始した。

 東電HDの中でもユニークな立ち位置・ビジョンを掲げる同社だが、経営体制も特徴的だ。代表取締役にはフィンテック業界で名をはせた妹尾賢俊氏とジェフリー・チャー氏が就任。エネルギー業界ではない異業種からの転身である。

 今回、同社の妹尾社長にTRENDEが目指す電力のP2P取引プラットフォーム、そしてその先にある、これからのエネルギービジネス対するビジョンを聞いた。

TRENDE 代表取締役社長の妹尾氏

TRENDEが目指す電力のP2P取引プラットフォームとは?

――TRENDEが目指す電力のP2P取引プラットフォームについて、具体的に教えてください。

妹尾氏 住宅などの太陽光発電で発電した電気を、電力使用状況に基づいて蓄電したり、他の住宅に売ったりといったことができる取引プラットフォームを提供したいと考えています。この仕組みによって、再生可能エネルギーの普及を後押ししたい。

 このP2Pプラットフォームの実現に向けては、3つのステップを考えています。

 まず、フェーズ1として2017年から純粋な小売電気事業である「あしたでんき」を提供し、フェーズ2として、いわゆる太陽光発電の第三者所有モデルである「ほっとでんき」の提供を開始します。ほっとでんきは、無償で住宅屋根に太陽光発電システムを設置する仕組みで、契約期間は10年と20年が選べる。契約期間中、20年契約の場合は既存電力会社の従量電灯より20%引き、10年契約の場合は10%引きで電力を供給します。契約期間が満了すると、設置した太陽光発電システムはユーザーに無償で提供します。

 その後、一定水準まで太陽光発電や蓄電池などの分散電源が普及した段階で、住宅同士で電力をやりとりできるP2P取引プラットフォームを提供し、再生可能エネルギーの普及を後押しする。これがフェーズ3でありゴールです。

 住宅の太陽光発電というのは、10年くらい経過すると蓄電池を活用した自家消費型にシフトしていきます。これが最終的に目指すP2P取引プラットフォームへの布石になる。ほっとでんきでは、当初から蓄電池を設置することも可能ですが、本格的な提供時期は、もう少し価格の低下が見込める数年後と考えています。

――フェーズ1や2で獲得した顧客のデータが、ゴールであるP2P取引プラットフォームの実現に生かされるということですね。

妹尾氏 そうなります。小売の部分だけをみると、東電HD内の事業者と競合するのではないかと見られるのですが、あくまでもフェーズ1や2は、P2P取引プラットフォーム構築のためのステップであって、最終的なゴールが違います。

――再エネの普及に伴い、日本国内でも電力のP2P取引などへの注目が高まっています。もう少し具体的に、TRENDEではどういった仕組み、サービス内容の提供を目指しているのでしょうか。

妹尾氏 先ほどもお話したように、電力のP2P取引プラットフォームというのは、住宅の太陽光発電で発電したり、蓄電した電力を、ユーザーが直接売買できる仕組みです。しかし、こうした売買をユーザーが自ら行うといった仕組みは考えていません。われわれのP2P取引プラットフォームを利用すると、自動で最適に売買が行われ、ユーザーが何かを意識したり、強制させたりすることなく、自然にメリットを享受できる――というようなユーザーエクスペリエンス(UX)を実現したい。

 そのためにはとにかく、P2P取引プラットフォームをユーザーの生活の中に、自然に溶け込ませることが必要になる。そこで大きなカギを握ると考えているのが、エージェントです。エージェントというのは、スマホ、スマートスピーカー、ロボット、電気自動車(EV)など、さまざまなものが考えられます。

 これは例えばですが、ソニーの「aibo」のような家庭向けのロボットや、AmazonやAppleの販売しているスマートスピーカーが、家電を制御したり、電力使用状況などを把握したりするエージェントになっているとします。ユーザーがこうしたロボットやスマートスピーカーを購入すると、そういった製品の裏側に、付帯サービスとしてわれわれのP2P取引プラットフォームが付いている。すると、結果的に住宅の電気料金が安くなったり、売電収入が得られたりする――といったイメージです。

 「電力のP2P取引プラットフォームを提供します!利用すれば月々いくらお得になります!」といったメッセージを発信し、顧客に“乗っかってもらう”という姿勢では、普及は難しいと思う。そうではなく、電力サービスの窓口としてユーザーの生活に溶け込むエージェントの選定、実はこれが電力のP2P取引プラットフォームの普及において、一番の肝だと考えています。

 Amazonは、ワンプッシュで商品を注文できる「Amazon Dash Button」やスマートスピーカーの「Amazon Echo」を販売していますよね。あれって、とてもうまく宅内や生活の情報を収集するエージェントを送り込んでいる。電力販売、P2P取引プラットフォームの普及においても、こうしたシナリオを考えていく必要があると思っています。

――エージェントとなるハードウェアを、自社で開発するという可能性もあるのでしょうか?

 可能性はゼロではないですが、優先順位としては他社との協業の方が高いです。エージェントが関しては、すでに複数の企業と話を進めているところですが、まださまざまな可能性が考えられる段階です。

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