このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高いAI分野の科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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東京大学情報システム工学研究室に所属する研究者らが発表した論文「Body Design and Gait Generation of Chair-Type Asymmetrical Tripedal Low-rigidity Robot」は、新海誠監督のアニメ映画「すずめの戸締まり」に登場する3本脚の椅子のキャラクターをモチーフにした非対称3脚低剛性ロボットを開発した研究報告である。歩行するだけでなく、3本脚なのに倒れても自分で起き上がれるのが特徴だ。
このロボットは、本来4本脚の椅子から1本脚がなくなったことで、体に対して非対称で不完全な脚配置となっており、容易にバランスが取れない特殊な構造をしている。
ロボット全体は3Dプリンタで製造した躯体を使用し、6つのサーボモーターを組み込んでいる。各脚は、2つのサーボモーターを使ったジンバル型2自由度構造である。制御系にはArduino Nano Everyを使い、IMUセンサーからロボットの姿勢を取得する。これらは外部のPCと通信している。ロボットの価格は約60ドルである。
研究チームは、提案ロボットにおいて「必要な姿勢をつなぐ方法」と「強化学習による方法」の2つの手法で歩行動作と起き上がり動作の生成を行った。
「必要な姿勢をつなぐ方法」では、実機で試行錯誤を重ねて発見した歩容に必要な姿勢をつなぐことで歩容を生成。「強化学習による方法」では、物理シミュレーション環境において、強化学習アルゴリズム「Proximal Policy Optimization」(PPO)を用いて歩容を生成し、それを実機に反映させる。
その結果、両手法ともに歩行と起き上がりを実現できたが、手法によって相違点が見られた。歩行動作では、強化学習による歩容の方が、3本脚を広げて振動しながら安定性を保ち前進するのに対し、姿勢をつなぐ方法では1本ずつ脚を出して前進するため、転倒リスクが高かった。
一方、起き上がり動作では両手法で座面を起き上がる方向と反対に傾けて反動を利用するという似たような動きが見られたが、強化学習ではさらに脚を振ることで生じる慣性力を利用して起き上がろうとする特有の動きが見られた。
また、強化学習による推論モデルにはIMUセンサーからのフィードバックが含まれているため、座面の右側面、背面、左側面が地面についているなどさまざまな初期姿勢からの起き上がりに成功した。
この研究は、非対称で不完全な体構造を持つロボットでも、試行錯誤で姿勢を見つけてつなげたり、強化学習を用いたりすることで、歩容生成が可能であることを示した。姿勢をつなぐ方法は比較的容易に所望の動作に特化した歩容を素早く生成できる一方、強化学習による方法はロボットの体構造を考慮に入れたロバストな動きを含んでおり、さまざまな初期姿勢からの起き上がり動作の実現など適応力が高かった。
Source and Image Credits: Inoue, Shintaro, et al. “Body Design and Gait Generation of Chair-Type Asymmetrical Tripedal Low-rigidity Robot.” arXiv preprint arXiv:2404.05932(2024).
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