このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高いAI分野の科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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英キングス・カレッジ・ロンドンに所属する研究者らが発表した論文「Exploring the Impact of ChatGPT on Wikipedia Engagement」は、2022年11月にChatGPTが一般公開されたことを受け、Wikipediaの利用状況にどのような変化が生じたのかを調査した研究報告である。
ChatGPTは、事実確認や質問への回答といった機能を有しており、Wikipediaと類似した役割を担う可能性がある。そのため、両者が競合関係になることを懸念する声もWikipediaの編集者の間から上がっていた。
この研究では、ChatGPTが利用可能な6言語(アラビア語、英語、イタリア語、スワヒリ語、スウェーデン語、ウルドゥー語)と、利用不可または禁止されている6言語(アムハラ語、ペルシャ語、ロシア語、ティグリニャ語、ウズベク語、ベトナム語)の計12言語のWikipediaを対象に、21年1月1日から24年1月1日までの3年間のデータを収集した。
分析には、Wikipediaのページビュー数、訪問者数、編集数、編集者数の4つの指標を使用。定量的な調査の結果、ページビュー数と訪問者数については、ChatGPTが利用可能な言語において統計的に有意な増加が見られた。ChatGPTが登場後もほぼ全ての言語でWikipediaの利用者は減ることなく、むしろ増加したということだ。しかし、利用不可の言語と比べるとその伸び率は低かったため、ChatGPTが伸び率を抑制した可能性も考えられる。
一方、編集数と編集者数には、増減が見られる言語があるものの、全体として統計的に有意な変化が少ないことを示した。研究者たちは、編集行為がページ閲覧に比べてコミュニティー主導の社会的活動であるため、ChatGPTの影響を受けにくかったと考察している。Wikipediaでは、編集者同士の相互作用やコミュニケーションが重要な役割を果たしており、それがChatGPTのような自動化ツールへの抵抗力になっている可能性がある。
Source and Image Credits: Reeves, Neal, et al. “The Death of Wikipedia?”-Exploring the Impact of ChatGPT on Wikipedia Engagement.” arXiv preprint arXiv:2405.10205(2024).
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