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音声AIの学習元を追跡できるシステム開発へ 日本で社団法人が設立 目指すは「人と音声AIのフェアトレード」(2/2 ページ)

» 2024年06月26日 10時00分 公開
[松浦立樹ITmedia]
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システム開発、資金調達はこれから

 AILASがこのようなシステムの構築を決めた背景には、内閣府の知的財産戦略推進事務局が5月に提示した「AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ」がある。この中に「生成AIと知的財産権との望ましい関係の在り方」という項目があり、ここに「各ステークホルダーが連携し、法・技術・契約の三位一体での取り組みを期待する」と記載されていた。AILASはこれに賛同し、システムの構築を決めたという。

 また、社団法人の形式をとった理由については「私自身、事業会社でこれまでいろいろ考えてきたが、なかなかそれが普及・拡大しないことが悩みだった。一方、同じ理念を考えている人はたくさんいるとも思っている。そこでAILASでは、ビジネスに左右されないセーフティーネットとして一番下にある基盤を作ることにした。この基盤を活用して、さまざまなビジネスをしてほしい」と倉田代表理事。

 一方、肝心のシステムは現在仕様を策定している段階で、資金調達などもまだ実施しておらず、開発ベンダーも決まっていない。AILASでは7月以降、一般・法人向けに会員受付を開始予定。そこで得られる会費やラベル取得費、また参加企業からの寄付金などをシステム開発の資金に充てていく。

AILASユーザー会員の種別案

 「私たちは事業そのものはやらないというところがポイントでもある。ただ、将来このシステムが稼働しだすと、さまざまなビジネスが発生すると想像している。そのとき、われわれが持っているデータを何かしらの形で提供し、そこから対価や費用を得るということは考えている」(倉田代表理事)

AILASの今後の予定

声掛けした全企業が趣旨賛同に“イエス”

 発表会見には、リアルタイムAIボイスチェンジャー「Paravo」を提供する、スタートアップ企業のParakeet(福島県広野町)も参加。同社のAIツールは、正規に入手した商用可能な音声データを学習に使っているという。

 一方、スタートアップ企業という立場と、声優の声を無断で学習に使っているAIツールが存在する現状から信用が得られず、思うようなキャスティングができない課題があった。そんな中で今回のAILASの話があり、同社もすぐに賛同を決めたという。

 AILASはParakeetのようなスタートアップ企業だけではなく、大手企業にも協力を求めている。倉田代表理事は「国内の大手企業にも声掛け済み。趣旨賛同という意味では全社がイエスと言っており、相当な時間をかけて協議をしている。しかし、現状の設立前の段階では参画しにくいという声があったため、今回先に団体設立を発表するに至った」と説明する。

 「国内にある既存の音声AI開発企業や事業会社には声掛けをし、相当の時間をかけて事前説明をしてきたつもりだ。海外の企業においても、日本の声優や実演家、いわゆる『顧客吸引力』(客を引き付ける力)がある人の声を使ってビジネスする場合には、AILASを活用してほしいと声をかけていく。私たちは全てのステークホルダーにこの活動に賛同してもらいたいという姿勢であり、世界に向けて日本発のフェアトレードシステムを伝えていきたい」(倉田代表理事)

 会見には声を提供する側の立場として、日本俳優連合代表理事で声優の池水通洋さんと、声優の甲斐田裕子さんも参加。自身らもAILASに参加すると表明したが、両者ともにAI学習用のデータ提供はしないつもりで、自身の声が使われたAIツールなどは偽物であることを示したいとして、AILASに参加したという。

 甲斐田さんは「実演家の考え方も一つではない。私のように自分の声を音声AIにするつもりもない人もいれば、適切な契約ができるなら自分の声を元にした音声AIを作ってもいいと考えている声優も多くいる」と説明。AILASの仕組みは多様性を尊重する仕組みで、これを否定することは音声AIを巡る対立や分断がさらに加速し、より状況が悪化するのではと危機感を示した。

声優の甲斐田裕子さん

 池水さんも「AIを利用しないということは今や考えられないが、適正なAI利用の規範が求められる」と主張。AILASを通して、健全なAI利用の方向性を示していきたいと話した。

日本俳優連合代表理事で声優の池水通洋さん
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