このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高いAI分野の科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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スペインのマドリード・カルロス3世大学やベルギーの研究機関Royal Meteorological Instituteなどに所属する研究者らが発表した論文「Satellite-Based Quantification of Contrail Radiative Forcing over Europe: A Two-Week Analysis of Aviation-Induced Climate Effects」は、航空機が地球の気候に与える影響について調査した研究報告である。この研究は、欧州上空に発生する飛行機雲(コントレイル)の放射強制力を、人工衛星データとAI技術を駆使して詳細に分析した。
AIシステムでは、U-Net基盤のニューラルネットワークを採用し、大量の衛星画像データからコントレイルを効率的に識別している。このAIモデルは、OpenContrailsデータセットを用いて事前訓練されており、高い精度でコントレイルを検出できる。
研究チームは、2023、24年の1月24〜30日までの各1週間のデータ(衛星画像内のコントレイル70万本以上)を比較し、コントレイルの発生状況と気候への影響を調査した結果、24年のコントレイルの数が23年に比べて41.03%も増加していることが明らかになった。
さらに重要なのは、コントレイルによる放射強制力(RF)が128.7%も増加していたことだ。放射強制力とは、地球のエネルギーバランスの変化を測る指標であり、この大幅な増加は、コントレイルが地球温暖化に無視できない影響を与えている可能性を示唆している。
研究チームは、コントレイルの効果が昼と夜で大きく異なることも発見した。日中のコントレイルは一般に冷却効果を持ち、最大で約-8TW(テラワット)の放射強制力を示した。これは、コントレイルが太陽光を反射し、地表に届く熱を減少させるためだ。一方、夜間のコントレイルは温暖化効果を持ち、最大で6TWの放射強制力を示した。これは、コントレイルが地球からの熱放射を宇宙に逃がさず、大気中に閉じ込めてしまうためである。
興味深いのは、検出されたコントレイルの62%が夜間に形成されていたことだ。このため、日中の冷却効果にもかかわらず、1日全体では温暖化効果が優勢となっている。日中に形成された大きなコントレイルよりも、夜間に形成された小さなコントレイルの方が、温暖化への影響が大きいことも分かった。これらの発見は、コントレイルの気候影響を評価する際に、その形成時間を考慮することの重要性を示している。
コントレイルの放射強制力(RF)の影響:冷却効果と温暖化効果の相互作用 23年1月24日(8:00 UTC)における、観測範囲内でのコントレイルの放射強制力を示している 青い領域は冷却、赤い領域は温暖化を示す 上段は短波放射(SW)による冷却効果、中段は長波放射(LW)による温暖化効果、下段はSWとLWを合計した正味の効果を表すこの研究は、コントレイルの気候影響評価において形成時間の重要性を明らかにした。これにより、より精密な気候変動モデルの構築が期待され、航空業界には飛行スケジュールの最適化や夜間飛行の対策が求められる。
Source and Image Credits: Ortiz, Irene, et al. “Satellite-Based Quantification of Contrail Radiative Forcing over Europe: A Two-Week Analysis of Aviation-Induced Climate Effects.” arXiv preprint arXiv:2409.10166(2024).
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