皆すぐに基礎研究の重要性を忘れてしまう――人工知能学会(JSAI)の栗原聡会長は10月10日、2024年のノーベル賞を巡ってそんなコメントを発表した。AI研究者がノーベル物理学賞・化学賞を受賞したことに対して「正直驚いた」と語っている。一方、日本では基礎研究を軽視する傾向が強まっているとして、危機感を示している。
2024年のノーベル物理学賞は、AIの基礎技術・ニューラルネットワーク研究の第一人者であるジェフリー・ヒントンさんとジョン・ホップフィールドさんが、化学賞は米Google DeepMindのデミス・ハサビスさんらが受賞した。栗原会長はAI関連研究が受賞したことに対して「正直驚いた」とし「AIが世界を大きく変えようとしている中、その基礎となった研究に対してノーベル賞を与えるのはベストなタイミングだった」と述べている。
続けて「毎年この時期になると皆が納得するものの、すぐに忘れてしまうのが、基礎研究の重要性である」と指摘。「現在の日本は、研究費を無駄にしないために必ず成功して事業化することが求められる傾向がどんどん強くなっている。これでは基礎研究などできるわけがない」と、日本の研究への姿勢に警鐘を鳴らしている。
「基礎研究はその成果が具体的に社会に役立つまでには10年程度はかかるし、全ての基礎研究の成果が社会で活用されるとも限らない。また、成功するかどうかも分からないのが基礎研究だ。かつての日本はこの基礎研究にしっかり取り組んでいたし、そのためノーベル賞を受賞される研究者も誕生してきた。しかし、現在の日本は極端な言い回しをするなら直近しか見えなくなってしまっている」(栗原会長)
ノーベル賞が発表される10月には、基礎研究の重要性に納得する人が多いが「11月になれば皆忘れてしまうのが現在の日本」と栗原会長。「何かしら抜本的かつ具体的な対策をとらないと、いよいよ日本のみが加速的に沈んでいくことになるのではないか」と問題提起している。
また、現状のAI研究は多くの計算リソースが必要とも指摘。「基礎的な研究がリソースの制約から進展しないのでは本末転倒」として、現状の研究費資金の分配制度にも言及している。「トップダウン的にテーマを決めての資金配分のやり方が重要であることは理解できるが、多様な基礎研究を加速させるためにも、テーマを決めずに単にその研究に潜在的な価値があるかどうかで資金を配分するような制度の拡充も必要ではないか」
「AIのイノベーションに対する寄与が、ノーベル賞受賞に至るという大きな転換となったのが24年だ。25年以降、どのようなAIに関する研究がノーベル賞を受賞するのか楽しみであり、特に日本人の受賞を楽しみに待ちたいと思う。実際にノーベル賞を受賞するに値する研究者は多数存在しているのであるから」(栗原会長)
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