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画像生成AI vs. イラストレーター 生成時に“二酸化炭素”を多く排出するのはどっち? 米国チームが検証 「最大2900倍もの差」ちょっと昔のInnovative Tech(AI+)

» 2024年11月07日 12時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

ちょっと昔のInnovative Tech(AI+):

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い、AI領域の科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。

X: @shiropen2

 米カリフォルニア大学アーバイン校などに所属する研究者らが2月に発表した論文「The carbon emissions of writing and illustrating are lower for AI than for humans」は、文章作成やイラスト制作においてAIシステムと人間、二酸化炭素の排出量が多いのはどちらか比較した研究報告である。

生成時に“二酸化炭素”を多く排出するのはどっち?

 研究チームは、文章作成とイラスト制作における二酸化炭素相当量(CO2e)を比較するため、AIシステムと人間それぞれの活動を詳細に分析した。結論として、AIシステムは人間の作家と比べて1クエリ当たり130〜1500倍少ないCO2eで文章を生成できることが判明した。また、イラスト制作においては、AIシステムは人間のイラストレーターと比べて310〜2900倍少ない排出量で画像を生成できることを示した。

文章制作における実験内容と結果

 文章作成の実験では、まずAIシステムの排出量を測定した。AIの排出量は主に2つの要素から構成される。1つ目はモデルの学習時に発生する1回限りのコストであり、これは多くのクエリにわたって分散される。

 2つ目は各クエリの排出量である。AIチャット「ChatGPT」は1クエリ当たり約2.2gのCO2eを排出する。これは学習時の1回限りの排出量(55万2000kgのCO2e)を多数のクエリ(1日当たり推定1000万0000クエリを継続すると仮定)で割った分(約1.84g)と、1回のクエリでの排出量(約0.382g)を合計した値である。

 同様に、国際研究プロジェクトのBigScienceによる大規模言語モデル「BLOOM」は1クエリ当たり約1.6gのCO2eを排出する。これは学習時の排出量(5万500kgのCO2e)の割り当て分(約0.10g)と1クエリ当たりの排出量(1.47g)の合計である。

 一方、作家の平均的な執筆速度(小説家・マーク・トウェインを基準とした1時間当たり約300語)から、1ページ(250語)の執筆には約0.8時間を要する。この時間における排出量を、居住地域別の年間CO2e排出量から計算すると、米国在住者(年間1万5000kgのCO2e)は約1400gのCO2e、インド在住者(年間1900kgのCO2e)は約180gのCO2eとなる。

 これに執筆時のPC使用による排出量が加わり、消費電力75WのノートPCの場合は27g、消費電力200WのデスクトップPCの場合は72gのCO2eが追加される。

 結果として、PCを使用した場合の総排出量は、米国在住者の場合、ノートPC使用時で約1427g、デスクトップPC使用時で約1472gとなる。インド在住者の場合は、ノートPC使用時で約207g、デスクトップPC使用時で約252gとなる。

1ページのテキストを書く作業に従事するAIと人間のCO2e排出量を比較した表

イラスト制作における実験内容と結果

 イラスト制作の実験では、画像生成AI「DALL-E2」と「Midjourney」を分析した。DALL-E2はGPT-3を基盤としているため、ChatGPTと同様に1クエリ当たり約2.2gのCO2eを排出すると推定。Midjourneyについては、CEOの発言に基づき、1枚の画像生成に必要な演算量(数千兆回の演算)から、1クエリ当たり約1.9gのCO2eを排出すると推定した。

 人間のイラスト制作については、プロのイラストレーターの平均的な制作時間を、平均的な料金(200ドル)と時給(62.50ドル)から算出し、1枚当たり約3.2時間と推定した。この時間における排出量を居住地域別の年間CO2e排出量から計算すると、米国在住者は約5500gのCO2e、インド在住者は約690gのCO2eとなる。

 これにPC使用による排出量が加わり、消費電力75WのノートPC(3.2時間使用)で約100g、消費電力200WのデスクトップPC(3.2時間使用)で約280gのCO2eを追加する。

 結果として、イラスト制作時のPCを使用した場合の総排出量は、米国在住者の場合、ノートPC使用時で約5600g、デスクトップPC使用時で約5780gとなる。インド在住者の場合は、ノートPC使用時で約790g、デスクトップPC使用時で約970gとなる。

1枚の画像を作成する作業に従事するAIと人間のCO2e排出量を比較した表

 これらの結果を踏まえると、現時点でのAIシステムは人間と比較して驚くべき低い排出量で同等の作業を実行できることが明らかになった。特にイラスト制作では、AIと人間の差が顕著であり、最大で2900倍もの差が見られる。

 ただし、これらの結果は現在の技術水準と社会状況に基づくものであり、将来的な変化によって相対的な環境影響は変わる可能性がある点に注意が必要である。

Source and Image Credits: Tomlinson, B., Black, R.W., Patterson, D.J. et al. The carbon emissions of writing and illustrating are lower for AI than for humans. Sci Rep 14, 3732(2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-54271-x



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