「2025年はデジタル民主主義元年になる」――AIエンジニアで東京都のAIアドバイザーも務める安野貴博さんは1月16日、AIなどのデジタル技術を政治に活用する実験プロジェクト「デジタル民主主義2030」を始めると発表した。政党や自治体と協力し、オンライン上で政策について意見を交わせる行政プラットフォームや、政治資金を公開で管理するシステムの開発を目指す。
デジタル民主主義2030は、政党や自治体などが政治的な立場を問わず、「誰でも無料でオープンソースのシステムを活用して実証実験を開始できる取り組み」のこと。2025年に予定される衆院選や参院選、都議選などを視野にプロジェクトを立ち上げ、共同で実験を行う政党などの募集を始めたという。
行政プラットフォームでは、台湾のシステム「ジョイン」を参考にする。ジョインは、台湾でデジタル行政に携わっていたオードリー・タンさんが主導したシステム。政策に関するアイデアを投稿でき、5000人以上の賛同が集まった案について政府が検討する。安野さんによると、過去10年間で250件以上の政策案が検討されたという。
安野さんは「永田町だけ、あるいは地方議会だけで議論が進んでいて、一般の有権者の声は届かないといった問題意識がある」と語る。「興味、関心がある人であれば、誰でも政策について議論ができ、それが実際に立法や条例の制定に結び付く」ような環境を、AIとWebの技術で実現したいという。
現時点では、「既にあるSNSとうまく連携していく」ものを構想しており、オープンソースである既存のプラットフォームに手を入れる形で開発中という。「Decidim(スペイン発のプラットフォーム)などを活用するのか」という記者からの質問には、「Decidimではないものを第1候補にして開発を進めている」との回答だった。
政治資金の透明化を図るダッシュボードの開発にも取り組む。参考にするのは“キャッシュレス先進国”として知られるスウェーデンの事例だ。安野さんによると、スウェーデンでは、政府が閣僚に対してクレジットカードを貸与。カードで公金の支払いをしており、誰が何にいくらお金を使ったのか、カードの明細が開示される仕組みが整っているという。
安野さんは「個人や企業などがクラウドサービスの会計アプリを使ってお金の流れを見える化している。これが今当たり前に行われている」と指摘する。同様に政治資金についてもダッシュボード上で可視化し、市民に公開できるようになるとの考えを明かした。
ほかに、AIを使って膨大な数の意見を収集・分析・可視化する手法「ブロードリスニング」もプロジェクトに取り入れる。安野さん自身が出馬した2024年の都知事選から活用してきた手法だが、ITに関する知見がなくても使えるようにするなどの改善を予定している。
「2024年が民主主義におけるデジタル技術の可能性を示した1年だとすると、2025年はそこから1歩進んで、デジタル技術が民主主義の在り方を実際に変え始める、まさにデジタル民主主義元年に相当する1年になる」(安野さん)
なお、記者から「安野さん自身が都議選に出馬するという考えはあるか」との質問に対し、安野さんは「現時点で決まっているものはない」と回答。「将来的に自分が出馬するというオプションは消してはいないものの、 今は、こういった活動を通じて、いろんな政治家・政党と一緒に協力しながら、何かできないかを模索したい」と語った。
安野さんは、2024年7月の東京都知事選に立候補し、AIやデジタル技術を駆使した選挙戦を展開。約15万票を獲得し、56人の候補者中5位となっていた。11月からは、東京都の行政DXを推進する団体・GovTech東京のアドバイザーに就任している。
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