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未来のコンピュータ、本命は“脳組織”? iPS細胞から作り出された「BPU」とは何か(2/3 ページ)

» 2025年02月05日 16時00分 公開
[石井徹ITmedia]

研究成果を“体感”するアート展示も

 こうしたBPU研究の成果は抽象的で、一般には「生きた細胞をコンピュータに?」と聞いてもピンと来にくい。そこでソフトバンク先端技術研究所は、メディアアーティストの真鍋大度氏とコラボレーションし、「脳オルガノイドが今どこまでできるか」を可視化・体感できるインタラクションアートを、2月9日まで東京・恵比寿にて展示(予約制)している。

 会場には3つの作品(Work1〜Work3)があり、音楽・ロボット・リズム学習といった多彩なテーマを介して、脳オルガノイドとの“やりとり”が示される。真鍋氏は「生体ならではの不確定要素とテクノロジーを組み合わせることで、想像を超えた表現が生まれる」とコメントしており、今回の展示はまさに“脳”と“機械”の境界を探る試みとなっている。

Work1:「細胞の耳」――音楽を聴く脳

 1つ目の作品「細胞の耳(Cellular Ears)」は、テクノやクラシックなど多様な音楽を周波数分析し、そのデータを光刺激に変換して脳オルガノイドに“聴かせる”という実験プロセスを公開している。遺伝子操作等で光に反応可能にした神経細胞に対し、ジャンル別の刺激を与えたところ、ノイズ刺激と明らかに違う反応を示す場合があるという。

6種類の音を光刺激として脳細胞に与える

 もちろん、“音楽を理解している”わけではなく、異なる刺激に対して脳オルガノイドがどの程度パターンを変化させるかを探る段階だ。だが真鍋氏の映像演出によって電位変化がリアルタイムに可視化される様は、まるで“細胞が耳を持ち、音に揺さぶられている”ように感じられる。

活動によって電位が変化する様子を視覚的に表示した

Work2:「神経細胞による自律型ロボット制御実験」――ロボットを動かす脳

 二つ目の作品は、ロボットに搭載されたセンサー情報を脳オルガノイドへ入力し、オルガノイドが出す活動電位をロボットの動きへフィードバックする制御系統をアート化したものだ。例えば、障害物が近づくと“罰”に相当する刺激を与え、ロボットが衝突しないよう学習させる。実際にはノイズも多く、うまくいくとは限らないが、“生きた脳”が機械の行動を左右するという発想自体が衝撃的だ。

犬型ロボットの周囲の壁を認識して、ロボットが壁を避けて動くように脳細胞にシグナルを送った

 展示では、映像やモーショングラフィックスで脳オルガノイドとロボットが“対話”しているかのように表現されており、見る者はロボットの挙動を眺めながら“生体×機械”の融合を実感できる。

Work3:「生命とリズム」――自分で生み出したビートを再び聴く

 三つ目の作品「生命とリズム」は、人間が音楽を聴いて身体を動かすように、“脳オルガノイドもリズムを学習し、再生成できるのか”を探究したものだ。

 1分を1サイクルとして、最初の30秒はコンピュータで作成したリズムパターンを電気刺激に変換し、オルガノイドへ入力。次の30秒は刺激を止めてオルガノイドの自発的な活動を観察すると、先ほどのリズムを引きずるような周期性が見られる場合がある。

 さらに、オルガノイドが作り出したビートを再度刺激としてフィードバックすることで、“自分が発したリズムを自分で聴く”というループが生まれ、より複雑かつ予測不能なビートが生じうる。

脳細胞にリズムを与えて、反響をフィードバックすることで音楽を作り出す

 ここでは、電極アレイの刺激ポイントと活動電位がグラフィカルに投影され、同時に音響変換されるため、脳オルガノイドがビートを奏でているようにも感じられる。まさに生きた神経回路が音楽的リズムを学習するシーンを目撃する体験だ。-

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