生産性を激変させるツールとして注目を浴びるAIエージェント。SNSでは「最強」「必須級」と、その利便性をやや誇大にアピールする声も聞かれる。しかし企業による導入となると、やはり一筋縄でいかない点があるようだ。SmartHRの齋藤諒一VPoEが4月24日に公開した資料「Cursor/Devin全社導入の理想と現実」からは、そんな“現場のリアル”が垣間見える。
資料は、齋藤VPoEが24日に登壇したイベント内の講演で用いたもの。AIがコードの執筆を支援するエディタ「Cursor」や、Slackなどで受けた指示を基に、まるで人間のエンジニアのように自律してソフトウェア開発を進められるAIエージェント「Devin」といったAIエージェントについて、SmartHRの利用状況を整理した上で、競合製品と比較検討した際の判断材料やプランの選び方、運用の課題を明らかにしている。
例えばCursorについてはプロダクト開発に携わるITエンジニアなどのうち、希望者に配布。当初は「Cline」「Windsurf」「Claude Code」といった競合製品と比較検討していたものの、LLMのAPIに対する従量課金が必要なClineは費用の規模が読み切れない点から、WindsurfやClaude Codeは検討時点で利用事例が少なかったり、そもそもサービスがローンチされていなかったりしたことからCursorを選ぶに至ったという。支払いを一括請求で管理したいことなどから、プランは組織向けの「Business」を選択した。
しかし、デザイナーやプロジェクトマネジャーなどにも利用が広がったため、開発生産性に対する厳密な費用対効果が計測できなくなっている点、機能に対して利用料金が高額な点などが運用上の課題になっているという。
他にも「年間契約によるディスカウント(値引き)を選ぶかどうか」「月に500回利用できる高速リクエストを使い切る人も出てくるので、追加の従量課金を許可するかどうか」など、対応を検討している課題があるという。
Devinについては検討当時では競合がなかったため一部チームで導入。月額500ドルの「Team」プランで検証をしつつ、さらに上位の「Enterprise」プランを検討している段階という。課題としては、エージェントを動かすクレジット「ACU」をチーム単位で割り振れず、あるチームが使いすぎると枯渇してしまう点などを挙げた。また、動作確認の結果としてスクリーンショットを添付してほしいと求めた結果、アスキーアートで出力してくるなど、予期せぬ動作も生じているという。
齋藤VPoEはCursorとDevinを導入してみての学びとして「Devinはナレッジがたまるとレベルアップするので中長期で成果を見るべき」「他人の使い方をまねてもすぐに活用できない」として「『成熟するまで様子を見よう』は危険」などを挙げた。一方、採用するプランの最適化や、すでに導入していたGitHub Copilotを今後どうするかが全体的な課題になっているという。
資料で上がったAIエージェントサービスを巡っては、スタートアップや大手企業の開発組織などを中心に導入が進んでおり、4月以降各社のテックブログなどでその発表が相次いでいる。同様に導入や活用を検討する組織にとっては参考になるかもしれない。
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