例えばAIエージェントが会計データベースやSaaSなどにアクセスし、財務に関する月次レポートを作成する場面を想像してみよう。MCPを使用しない場合、次のような対応を取る必要がある。
まずAIエージェントの開発者は、レポート作成に必要なデータが存在するシステム(それは複数で、散在していることが多い)に対して、個別のコードを書かなければならない。AIが外部のツールやデータ、APIとやりとりする際の連携手段が断片化しているためだ。これは、USBが登場する前に、コンピュータに周辺機器を接続するためにさまざまなポートやカスタムドライバーが必要だった状況と似ている。
接続する対象が複数だった場合には、当然ながらその分のコードが必要になる。またこちら側が使用するエージェントが複数になれば、さらにその分の対応をしなければならない。つまり、いわゆる「M×N問題」(M個のアプリケーションとN個の外部システムの間でM×N通りの連携が必要になる問題)に直面することになる。
開発・運用が増えれば増えるほど、管理すべきポイントやそのチェック漏れも増えるため、リスク統制や監査という観点からも、このような状況は望ましくない。今回のように財務レポートを書かせるといった重要な業務であればなおさらだ。
さらに連携先のシステム側でAPI仕様が変更されたり、データ構造が変わったりするたびに、AIエージェント側のコードも修正・更新する必要が生じる。このような状況では、AIエージェントが複数のシステムをまたいで1つの業務を遂行したり、動的にツールを使い分けたり、タスクの規模を拡大させたりするのは難しい。
そうした障壁を取り除き、AIエージェントと外部システム間の連携を標準化することを目指して生まれたのがMCP、というわけだ。
MCPに対応している外部システムに接続する際、AIエージェントの開発者は個々のシステムの技術的な違いを意識する必要はない。相手のシステムは「MCPサーバ」と呼ばれる概念上の存在として認識され、このMCPサーバがAIエージェント用の受付窓口のようなものとして機能する。
ちなみにその際、窓口において、エージェントがどの帳簿や期間にアクセスできるかを細かく決めた「入館証」のようなものが発行される。これが相手側のシステムにおいて、セキュリティを守るための鍵となる。
AIエージェントは、MCPサーバで用意されているデータやツールを利用して、目的を達成する。作業の結果も受付窓口を通じてやりとりし、そのログを残すことが可能。もしAIエージェントが最終的な目的を達成するために、別の作業を実施する必要があれば、それを手助けしてくれる別の窓口(MCPサーバ)に行って、来訪した目的を告げれば良い。統制の観点から見ても、何か問題があった場合にはログを確認すれば良いため、非常に効率的だ。
当然ながら、こうした世界が実現されるためには、AIエージェントにとって価値のあるデータベースやツールを用意しているシステム側が、MCPに対応していなければならない。しかしMCPがデファクトスタンダードとして定着することが確実なのであれば、自社のサービスをもっと外部に使ってもらいたいと考える企業は、エージェントを呼び込むためにMCPへの対応を進めるだろう。
そうなればAIエージェントを開発する側も、MCPを通じ、自社のエージェントにさまざまな機能を簡単に付与できる。結果、AIエージェントを開発する側も、エージェントが利用する可能性のあるサービスを提供する側も、こぞってMCP対応を推進すると考えられる。
デファクトスタンダードの定着はそれほど簡単ではないが、一つのシナリオとして十分に期待が持てる話だ。企業にとっては、これまで思い描いていたエージェント導入のロードマップを、そのタイミングと機能の両面で見直す必要が出てくるかもしれない。つまりMCPの普及により、従来考えられていたより高度な機能を持つエージェントが、より早い時期に実用化される可能性が高まっているのである。
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