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生成AIの業務活用にプロンプトスキルは必要か? 会社にAIを浸透させる「4つのステップ」クリエイティブにAIを込めて(2/2 ページ)

» 2025年08月07日 12時00分 公開
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 24年末に当社で計測した際には、週に1回以上生成AIを利用して業務をしている社員が半年間で約60%から94%にまで達しました。この数字は外部でもあまり見たことがなく、かなり高い水準で生成AIを活用できていると自負しています。また、バックオフィス領域では特に活用が進んでおり、これまで月に数万円程度支払って利用していた外部サービスを生成AIで代替するなど、具体的な成果にもつながっています。

 当社の生成AI活用は、すでに支援の必要なく自律的に急速に進んでいます。ボトムアップで現場目線で生成AIの活用を検討したことで、社員が日頃の業務で生成AIを活用してみようと思う環境づくりにつながったと考えています。

生成AI成熟度の目安、4つの段階

 ここからは生成AI活用が定着化する組織について触れていきます。

 生成AI活用を定着させるためには、企業に「新しい取り組みを積極的に推奨する文化」が必要だと考えています。生成AIの利用は、従来の業務フローにはないプロセスです。場合によっては、ChatGPTの活用にかけた時間を無駄なものと捉えられてしまう可能性もあります。社内でこのような言葉が出てきてしまうと、生成AIの活用は進みません。

 その意味では「生成AIを活用したけれどうまくいかなかったこと」に価値を見いだせるかも重要です。生成AIはもちろん万能ではありません。また、実際にやってみないとうまくいくかが分からないという側面もあります。生成AIを使ってみたけれども、やりたいことをうまく実現できないというケースはよくあることです。

 100時間かけてもうまくいかなかったときに、この失敗を価値があると捉え、さらなるチャレンジを推奨できるかが生成AIの定着化においては重要となるでしょう。このような失敗は、結果として新しい発想のヒントとなります。

 私自身としては、生成AI活用の成熟度として「黎明期」「導入期」「実験期」「活用期」という4つの段階が存在すると考えています。

黎明期

 一般的な組織では、まずは生成AIに対して興味がないという状態から始まります。この状態から生成AIの定着化に向けてまず有効となるのが、外部の先行事例の発信です。競合他社の先行事例など「他社はこれだけ進んでいる」ということを共有します。また「そもそも生成AIとは何か」といった基礎的な勉強会なども有効となるでしょう。

 ポイントは、この段階でプロンプトの書き方など難しい話をしないということです。いきなりプロンプトの話をしてしまうと、生成AIに興味を持った方の出ばなをくじくこととなってしまいます。まずは、生成AIは取り組めば面白いものであるということを知ってもらうことがスタートです。

導入期

 この段階を過ぎると、経営層やDX担当者など、さまざまな方に普及していきます。会社として生成AIを利用していくという機運が生まれる導入期へ移行します。

 導入期では、生成AI活用に対して成果が求められます。業務の困りごとに対して生成AIが役に立てるようにするためには、ツールを整備したり、プロンプトの書き方を共有したりといった活動が必要となってきます。

実験期

 次に、実験期へと至ります。現在、多くの企業がこの段階に至っています。実験期は、既存の社内情報を活用したRAGの実証など、社内データの活用に注力していく段階です。社内にあるデータをAIが分かりやすいようにまとめて、それを基に生成AIの活用幅を広げていきます。さらに、生成AIにどのような情報を与えれば、生成AIを最大限利用できるのかも検討されていきます。

活用期

 最後が活用期です。これまで社内資料などは、人間が読みやすいように作られてきましたが、AIが情報を読み人間が活用していく世界においては、AIが読みやすい形で情報を蓄積していく必要があります。今後は、そもそもの情報の作り方自体が変化していくでしょう。

生成AI成熟度の4つの段階

プロンプトは必要or不要?

 他社の生成AIの推進担当者の方と話をすると、よくプロンプトの必要可否が議論となります。社員がプロンプトを入力できるようになるべきという意見もあれば、そこまでは不要という意見もあります。

 私自身は、上記の通りフェーズによって必要可否が変わってくるという考えを持っています。一定の段階まではプロンプトは不要ですが、生成AIを十分に使いこなすためには、プロンプトを作成できるスキルが必要です。

 生成AIを組織に定着化させるためには、まずは個人単位での成功体験が不可欠でしょう。不十分なものでも良いので、まずは自分でChatGPTにプロンプトを入力してみて、結果を得るという体験が大切です。

 例えば、ある中間管理職の方が上長に報告を行う際の素案をChatGPTに作成させてみたら、思ったよりも良いものができたなど「これはすごい」と思えるような体験を通して、生成AIの活用意識が芽生えていくのではないでしょうか。

「生成AIで仕事の大変さを軽減できる」という視点

 生成AIの活用が定着化していくと、業務効率化にも成果が見えてきます。例えば当社だと、広告出稿にかかる作業なども大きく効率化できました。これまで2時間かかっていたペルソナの深堀やレイアウトの検討、商品画像の選定なども、GPTsにより30分以内で終わるようになりました。

 その上で、人間がさらに付加価値を高めています。生成AIが作成した案をベースにさらに別案を検討したり、ブラッシュアップを行ったりすることで、これまでよりも顧客に対する提案の質も上がっています。これは、本来人が向き合うべき業務に向き合う時間を確保できた事例だと捉えています。あらゆる業界・業務で同様のケースがあるのではないでしょうか。

 当社でも、提案資料などの最終的なアウトプットは人間が作成しています。やはり顧客に納得してもらえるストーリー作りや、コンセプトも含めたデザイン作成などは人間の力が必要です。人間がやるべき仕事とAIに任せるべき仕事の区別は非常に難しいですが、一つのヒントだと感じているのが「生成AIによる仕事の大変さの軽減」という効果です。

 生成AIを活用したからと言って、工数が大きく減ることばかりではありません。一方、社内の多くのメンバーから「生成AIによって、仕事をする上での面倒や大変さは大きく軽減された」という声も聞きます。生成AIを利用することで、同じ1時間の仕事でも心理的な大変さが段違いに違うのです。この感覚は、新しい指標として重要なものだと考えています。

 このような感覚を持ちつつ、私自身は、制度そのものにAIを埋め込んでいくところまで支援できればと考えています。今後、AIを利用せずに仕事をする世界は考えにくいといえるでしょう。このような時代において生まれる衝突や不和に対して、制度設計からアプローチできればと思っています。

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