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GPT-5は“期待外れ”だった? 「革新的ではない」「keep4o」 最新AIモデルのマーケティングの難しさ(3/4 ページ)

» 2025年08月21日 12時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

GPT-5は“革新的ではない”

 例えば、米ニューヨーク大学の名誉教授であるゲイリー・マーカスさんは、自身のブログやSNSでGPT-5のリリースを厳しく批判。「GPT-5: Overdue, overhyped and underwhelming. And that’s not the worst of it.」(GPT-5:登場が遅れ、期待は膨らみ、結果は肩透かし──だが問題はそれだけじゃない)と題されたブログ記事では、以下のように述べている。

 「しかし現実には、GPT-5はそれ以前のモデルとそれほど変わらない。それがポイントなんだ。多くの人々が、GPT-4はGPT-3よりも劇的な進歩を遂げていると考えていた。GPT-3もGPT-2より劇的な進歩を遂げていると広く考えられていた。(中略)人々は奇跡を期待するようになってきていたが、GPT-5は最新の漸進的な進歩にすぎない」

 OpenAIが当初の計画通りにGPT-5を開発・発表できなかったのも「この革新性を実現できずにいたからではないか」と一部で報じられている。当初OpenAIは、従来通りとなる「AIに与えるデータ量・モデルの大きさ・計算をとにかく増やして精度を上げる」という戦略で次世代AIモデルを開発しようとしていた。

 しかし良質なデータの不足、コストの高騰、スケール拡大の限界という事態に見舞われ、期待ほどの性能飛躍が得られないという結果に。そこでいわゆる「推論モデル」(段階的に考え、手順を追って解を導くAI)へと舵をきり、上記のような複数モデルを組み合わせるという構成にしたが、革新性を達成するには至らなかったというわけだ。

 米Fortune誌はこれを「196億ドルの方向転換」とやゆし、多額の開発予算を投じながら、これまでのOpenAIの得意技が通用しなくなったと解説している。

“優しかった4o”を返して…… 取り違えられたユーザーの期待

 もう一つ、ユーザーをがっかりさせてしまったポイントがある。それはGPT-4oの提供停止(後述する通り現在は復活している)とGPT-5の「冷たさ」だ。GPT-5のリリースと同時に実施されたのが、旧モデルの提供停止だった。その中で特にユーザーからの反発が強かったのが、GPT-4oの停止だ。

 米Business Insider誌は、このGPT-4oの停止いう措置に対して、ユーザーたちが意外な反応を見せたことを報じている。GPT-4oを気に入っていたユーザーたちから、GPT-5の口調がそっけないという苦情が寄せられ、中には「AIの友達がいなくなり、もう戻らないと気づいたとき、私は涙を流しました」や「(ChatGPTが)ロボトミーされた」など訴えるユーザーまで出たという。

 ロボトミーとは精神疾患の治療を目的に脳の前頭葉の神経を切断する外科手術で、人格や感情に深刻な影響を及ぼすため現在では行われていない。つまり「優しかったGPT-4oを切り捨て、冷たいGPT-5に切り替える」という方針が、過去の非道な手術に等しい行為であると非難したわけだ。

 あえて口汚く言えば、GPT-4oは「ただのAIモデル」にすぎない。なぜそれが公開停止されただけで、涙を流す人まで現れたのだろうか?

 その理由は、「シカファンシー」(sycophancy)と呼ばれる現象で説明できる。これは日本語で「おべっか」や「へつらい」を意味する言葉で、AIモデルにおいては、「ユーザーに過度に共感し、お世辞や迎合的な姿勢を示す傾向」を指す。GPT-4oは特にこの現象を起こす傾向が強かった。ユーザーがばかな提案をしたとしても、それを否定するのではなく、「素晴らしいですね!」などと肯定することが頻繁に発生していたのだ。

 もちろん回答の正確性という観点からは、シカファンシーが出てしまうことは望ましくない。そのためGPT-5では、その傾向の抑制が試みられている。しかしAIチャットbotを調査ツールではなく、話し相手、あるいは自分を慰めてくれる存在と捉える人々にとっては、むしろ過剰といえるほどに共感してくれた方がありがたい。

 そうした人々が想像以上に存在した結果、共感してくれるGPT-4oと入れ替わるように登場したGPT-5に、予想以上の批判が寄せられたのだ。

 こうしたユーザーの反応に対し、OpenAIはChatGPT有料版においてGPT-4oを復活させることを、GPT-5リリースの翌日に決定。さらに8月12日には、GPT-5の「性格」のアップデートを試みており「現在の性格よりも温かみを感じさせる」ものになると発表した。ChatGPTユーザーからは、こうした迅速な対応に歓迎の声が上がっている。

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