今回の騒動からは、単なる新製品ローンチの失敗という話を超えて、さまざまな教訓が得られると識者たちは指摘している。
まずこの1件が明らかにしたのは、ChatGPT、ひいては会話型AI全般のユーザーの二極化だ。つまり現在、一方にはAIを功利主義的なツールとして捉え、効率性と正確性を追求したAIを望むユーザー層が存在している。もう一方には、AIを感情的なコンパニオンとして捉え、「彼ら」に共感や温かさを望むユーザー層が存在しているわけだ。
前者にとって、GPT-5は期待に応えるものとなる可能性があった(後述するように、その期待が過剰に煽られていなければだったが)。彼らがGPT-5について「以前より頭が悪くなった」という印象を抱いた原因は、モデルを自動で選択するルーターに不具合があったためであり、これはその後解消された。
しかし後者にとっては、GPT-5は壊滅的なダウングレードだった。いくらGPT-5が正確な回答をしてくれるモデルだとしても、彼らが望むものはそこには無いのだ。AIモデルが単なる回答の正確性という観点だけでなく、人間らしさや親しみやすさといった観点からも評価される時代に突入していることが浮き彫りになったといえるだろう。
次に指摘されているのは、高度なAIモデルのバージョンアップを巡るマーケティングの難しさだ。
OpenAIの得意技だった「大量の学習データと膨大な計算力を背景に力技でモデルを賢くする」という手法に限界が見えている以上、同社のモデルのバージョンアップは革新的ではなく漸進的なものになりつつある。もちろん別の開発手法が革新を生み出す可能性は残っているが、そう何度も狙ってホームランを打てるものではない。
にもかかわらず、GPT-4の発表から長い期間が経過していたこと、OpenAIやアルトマンCEO自身が事前に大々的な宣伝をしていたことにより、ユーザーの期待値は極めて高まっていた。
しかもChatGPTは、いまや週当たりのアクティブユーザー数が7億人を超える巨大サービスへと成長している。膨大なユーザー全員の期待値を適正レベルに維持しておくというのは、ただでさえ難しい話だ。単に好意的なベンチマーク結果を公表する以上の取り組みが、今後他のAIベンダーにも求められるようになるだろう。
またAIにおけるユーザー主権の時代の到来を示唆する声もある。OpenAIがわずか1日でGPT-4oへのアクセスを復活させたことは、AI開発におけるパワーバランスの変化を象徴している、というのだ。
ユーザーの声が企業戦略をあっという間に覆すほどの力を持つに至っているのであれば、AI産業は既に成熟期に入っており、ベンダーはユーザーの顔をより一層うかがうようになるかもしれない。
少なくとも今回の一件は、将来のAIモデルのリリースにおいて、ユーザーの選択権と移行期間を大切にすることの重要性を示すものとなった。AIベンダーは今後、技術的進歩だけでなく、モデルの性格やその継続性への配慮を組み込んだ展開戦略を採用する必要があるだろう。
このようにGPT-5のリリースを巡る騒動は、生成AIを取り巻く環境が複合的に変化していることを示唆している。OpenAIが痛い失敗からそれに気付き、新しい時代に向けた戦略を練り直していけるか。はたまた他のAIベンダーが反面教師として捉え、先に変化に適応できるか。次の一手が、これから数年を占うものになるかもしれない。
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