オルツが資金調達した100億円を使って、何を成し遂げたのでしょうか。ここでオルツが発表した製品・サービスの一覧をまとめました。創業当初からさまざまな製品やサービスを発表しているものの、実際に販売できたものは一部です。さらに業績に大きく寄与する製品は「AI GIJIROKU」のみでした。
自社開発とされる大規模言語モデル(LLM)に「LHTM-2」がありますが、こちらも不明瞭な部分が多々あります。LLMは、大量の情報を学習して人間のように自然な文章を生成したり、質問の内容を理解したりできるAIモデルです。LLMはChatGPTでも根幹技術として利用されています。以下に、オルツによるLHTM-2の特徴を紹介します。
自社開発ではあるものの、性能などは自社発表以外の根拠が薄いです。そもそもLLMの開発には時間も費用も人材も必要で、独自開発を行っているのは通信会社や大手電機メーカーなどに限定されます。オルツは社員数が少なく、LLMを開発するエンジニアをクラウドソーシングで募集していました。さらに外部への研究開発費も循環取引で実体がありません。そのため、性能や完成度には疑問も残ります。
ノーコード生成AIプラットフォーム「alt BRAIN」は試用や販売が可能な製品で、モバイルアプリも提供しています。実物はいわゆるアバター付きのチャットbotです。特定分野に詳しいものや、キャラクターになりきったものを作成したり、LINE、Slack、Discordで自動生成できるとされています。
実際に試してみましたが、23年9月の正式リリースである点を考慮しても目新しさや優位性を感じにくいものでした。既に評価試験として野村証券やJR西日本など100社が関わると発表があり、2社からこのサービスを活用した製品が発表されています。
教科書の制作を手掛ける東京書籍は、自分専用のAIで楽しく効率よく学ぶ「教科書AIワカル」を提供しています。25年4月から一部機能を利用できる体験版を公開しており、25年秋から本サービス(有料版)がリリースされる予定でした。もう1社は軽井沢観光協会にて、観光情報提供サービス「軽井沢 AI Navi」による実証実験が24年7月に開始されましたが、続報はありません。
製品やサービスの研究開発において、外注への委託も行っていました。こちらも循環取引が行われており、実質的な研究開発は行われていませんでした。ただし金額としては広告費より少ないです。
また公的な発表における研究開発の成果として、特許申請があります。下記が特許の出願公開件数となり、カッコ内は受理された特許件数です。
2017年3件(0件)、2018年3件(1件)、2019年2件(1件)、2020年3件(3件)、2021年2件(0件)、2022年4件(1件)、2024年2件(0件)、2024年1件(1件)
学会発表は17年に自然言語処理における学会であるACLにおいて、拡張固有表現抽出について発表しています。また、計算言語学の国際会議であるCOLING 2018にて、拡張固有表現認識の研究成果を発表しました。受賞歴としては18年にVLSP固有表現認識コンテストで優勝しています。言語処理学会ではスポンサーとして、第23回年次大会、第31回年次大会、第19回言語処理若手シンポジウムに参画しています。
大きな費用がかかった事業として、企業買収があります。24年12月にSES事業とDXコンサルティング事業を展開するわさび(東京都渋区神)とGreen&Digital Partners(東京都渋区神)を7.6億円で取得しました。23年6月に国内シェアNo.2の人力文字起こし事業のIPパートナーズ(東京都港区)を買収しましたが、こちらの取得金額は不明です。
このように、オルツが10年の時間と投資家から集めた100億円によって実現したことは、非常に限定的です。さらに設立当初に掲げたパーソナルAIの実現性においても大きな疑問が残ったまま、民事再生となりました。
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