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オルツの不正はなぜ起きた? 報告書・元社長の経歴を分析 「AI新興企業は“捕まっていない詐欺師”」と言わせないためにマスクド・アナライズの「AIしてま〜す!」(3/5 ページ)

» 2025年08月28日 12時00分 公開

 それでも金額が高すぎる広告費などに対して、疑問を抱かないのは不自然です。この疑問に対しては、米倉氏と日置友輔CFO(最高財務責任者)が「将来を見据えた投資が必要」と説明しており、循環取引を指摘したAW監査法人が降りた点も「極めてコンサバなスタンスが原因」「AIスタートアップに対する理解が不足しており、教科書的な指導が当社にそぐわなかった」などの説明で押し通しています。

 結論として、調査報告書では「経営トップに求められる『誠実性』の欠如」を指摘しています。そのため内部統制(ガバナンス)が構築されず、社長による不正行為を止められず、CFOを巻き込んで組織的かつ継続的に行われて、関係者への虚偽報告がまかり通ったという結論です。一方、他に気になる点もあります。

 報告書で要因として挙げられた「最先端の事業に対するバイアスなどの可能性」です。AI GIJIROKUを含めたAI・生成AI製品について、最先端の事業なので、監査法人や投資家や証券会社は理解が及ばない分野であり、そのために広告展開や研究開発における費用や取り組みが正確に把握できなかったとする点や、AIに対する過度な期待によって妥当性や合理性の判断ができなかったと指摘があります。

 ではオルツの不正行為について、投資家や監査法人、証券会社、証券取引所は見抜けなかったのでしょうか。

 隠蔽工作においてはCFOも中心人物として加担しています。報告書では、実際に「深夜に作成したPDFファイルを送信」「会社規模と取引金額が乖離しないように説明」など、具体的な指示がありました。このような不正があったものの、投資家は取締役会で経営状況について納得したとのことです。

 しかし、多額の広告費に対して実体がなく、投資家や監査法人は違和感を覚えるでしょう。過去の議事録で「タクシー広告を配信で取引数が急激に成長」「テレビCMによるプロモーション強化」などの文言があります。ネット広告は利用者によって表示される内容が異なりますが、タクシー広告やテレビCMは見る機会もあるはずです。

 さらに24年10月末には、循環取引を行っていた取引先が社会保険料の滞納分(2200万円)で差押えを受けると連絡がありました。そこで融資申込みを行ったところ、金融機関の担当者から循環取引などの疑いを持たれているという状況を認識しています。取引先の金融機関が循環取引をうたがっており、監査法人が見過ごすのは不自然です。

 以前の監査法人を務めていたAWは、22年9月に循環取引を指摘し、現在の監査法人であるシドーへ引き継いだ議事録に「循環取引の疑念が生じた」と記載があります。しかし、調査報告書では「広告宣伝費と売上高がオルツによって取引の外観が整えられていたため、結果的に決算数値に疑念を抱くことはなかった」としています。同様に不正の監視役となる社外取締役と監査役も、循環取引の計画に関わってないため気付かなかったと報告書は結論付けています。

 このように循環取引は疑いがあっても、発覚するのは上場後になってしまいます。これは監査法人が上場前に明確な証拠を発見する徹底的を調査を行うことが難しいためです。今回は上場企業としての責任から第三者によって過去のメールやSlackなどを徹底的に調査しており、初めて明確な証拠が発見されました。しかし上場前の疑いがある段階では、そこまで調査はできないのも現実です。

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