いまやAIスタートアップは無数に存在しており、多くは真剣に事業に取り組んでいます。素晴らしい理想を目指すスタートアップが大失敗することは、よくあることです。しかし、オルツの場合は「失敗」ではなく「不正」であり、犯罪につながりかねない行為です。今回の不正によって「AIスタートアップ=捕まっていない詐欺師」という印象を抱かれる可能性もあります。
これは私の実体験ですが、明らかな違法行為を犯す生成AIスタートアップを警察に相談したものの「警察として違法性があると判断しているが」という前置きを含めて「(日本の会社だが)海外にサーバがあるので調査が難しい」「シェアオフィスなので経営実態の判別がつきにくい」という理由で、対応を見送られました。
このようなスタートアップが氾濫すれば、いずれ第2、第3のオルツが登場するでしょう。できることは利用者としてお金を払わず、会社として取引せず、投資家として出資を見送ることです。
オルツの不正発覚後、一部メディアは記事を削除し、一部提携先はプレスリリースを削除しています。さらに合弁企業を設立した会社は100%子会社と改めて、他の会社も「過去から現在に至るまで検討のみで具体的な取引はありません」と発表するほどです。
しかし、都合の悪い過去を無かったことにするだけでは、前進できません。メディアや提携先は、怪しい兆候を見抜けなかった原因を検証すべきです。
なぜ、オルツの不正が自社が発表するまで発覚しなかったのでしょうか。過去にIT業界や投資家の中で「オルツが怪しい」という意見はありました。しかし、明確な根拠もないまま「怪しい」と断言すれば、確実に抗議がきます。問題のある企業を指摘することに、直接的な利益はありません。抗議したくとも、訴訟に持ち込まれるリスクを考慮すると黙るのが得策でしょう。
社員による内部告発でも、告発者の保護に不備がある現状なら尚更です。暴露系インフルエンサーや文春砲に密告しても、生成AIやIT業界における不祥事は芸能人の不倫と違って大きな話題になりにくく、リスクを負って発表する理由になりません。
今回のオルツの事例は、日本のAIビジネスにおいて大きなインパクトを与えました。AIブームに乗って10年の時間と100億円の資金調達の結果、売れない議事録ソフトの不正売上によって株式上場させたものの9カ月で上場廃止になり、負債総額24億円で民事再生という終わりを迎える。これはある意味伝説です。われわれができることは、怪しい会社を見抜いて関係を持たないことです。
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