このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高いAI分野の科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米Google Researchに所属する研究チームがNature Medicine誌で発表した論文「A personal health large language model for sleep and fitness coaching」は、ウェアラブルデバイスから収集した健康データを活用して、睡眠とフィットネスの個別指導を行う大規模言語モデル(LLM)を開発した研究報告だ。
従来の医療では定期的な診察時にしか生活習慣の評価ができなかったが、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスの普及により、睡眠や身体活動、心拍数などの健康データを継続的に収集できるようになった。しかし、これらの大量のデータを解釈し、個人に適した健康アドバイスに変換することは困難であった。
今回開発したAIモデル「Personal Health Large Language Model」(PH-LLM)は、Gemini Ultra 1.0をベースに、日々の数値センサーデータの理解と推論に特化した微調整(ファインチューニング)を施したモデルだ。PH-LLMは、日次の集約されたセンサーデータを理解し、それに基づいて推論を行う能力を持つ。
開発過程では、睡眠医学の専門医と運動トレーナーが複数人協力し、高品質なトレーニングデータの作成と評価を行った。データセットには、Fitbitから収集した最大30日間の生理学的指標が含まれ、就寝時刻や睡眠段階、心拍数、心拍変動、活動量などを記録。さらに、4163人の参加者データを用いて、ウェアラブルセンサーデータから主観的な睡眠品質を予測するマルチモーダルアダプターも開発した。
研究チームは、このモデルの性能を評価するため、睡眠医学とフィットネスの専門知識、個別化された洞察と推奨事項の生成、縦断的データからの自己申告睡眠品質の予測というベンチマークデータセットを作成した。
評価の結果、PH-LLMは睡眠医学の専門試験において79%の正答率を達成し、人間の専門家の76%を上回った。フィットネス関連の試験では88%の正答率を記録し、こちらも専門家の71%を超える成績を示した。さらに857件の実世界のケーススタディーを用いた評価では、フィットネス関連タスクにおいて人間の専門家と同等の性能を発揮した。
Source and Image Credits: Khasentino, J., Belyaeva, A., Liu, X. et al. A personal health large language model for sleep and fitness coaching. Nat Med(2025). https://doi.org/10.1038/s41591-025-03888-0
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