生成AIの活用推進で、東京大学の入試は変わるのか──米OpenAIと東京大学の対談で、このような話題が飛び出した。来日した米OpenAIのジェイソン・クォンCSO(最高戦略責任者)は9月8日、東大の藤井輝夫総長と対談を実施。大学での生成AIの活用や、今後の展望について意見を交わした。
藤井総長によると、東大では現在、学生が生成AIを活用しながら、AIについて学べる環境を整備している。例えばある授業では、学生たちの議論にAIを参加させ、学生がAIのアイデアや意見について考察し、AIの挙動への理解を深めている。また、AIに質問の最終的な答えを出させるのではなく、提案や回答のヒントを求める形で利用するなど、学術的な信頼性を損なわないための工夫もしている。
このように大学の授業でAI活用が進む一方、ChatGPTが東大の入試の合格点を取ったとの報告もある。AIの知能が徐々に高まっていく中、東大の入試方針などは変わっていくのか。この質問に対し、藤井総長は「今のところ、通常の入試は変わらない」と答える。
続けて「AIが簡単に解けないような形で問いかける方法を考える必要はある」と補足。現状では通常の入試を大きく変える必要はないとの考えを示した。
対談では「今後5年間で生成AIにより、教育や学習、研究環境はどう変わるのか」というテーマについても語り合った。
藤井総長は「AIを活用する学生や研究者はさらに増える」として、研究の効率が高まると指摘。またロボティクス領域など、物理的な世界での生成AIの応用事例や研究が増えていくと見解を示す。
クォンCSOも、藤井総長に同調し、今後5年間の変化の一つとして「科学の加速」を挙げる。AIにより学生の知識の習得などが効率化していく未来を予想している。他にも「AIシステムとロボティクス技術を組み合わせることで、24時間365日休みなく実験室で実験できるようになれば、成果は増えるはず」と予想の根拠を述べた。
また、クォンCSOはイノベーションが起きにくい領域についても「世界が非常に複雑になり、さまざまな学問分野の統合が必要になっているからだ」と分析。汎用的な知識を持つAIにより、異なる分野の専門家たちが協力しながら研究する環境を素早く構築できる可能性にも触れた。
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