何てことない普段の食卓の写真が、大炎上した。「あなたの料理に対するこだわりって、どこにあるの?」「その卵の切り方、わざと雑にしてるの? それとも才能?」などと、SNSで叩かれまくった。落ち込んだ。
実在のSNSではない。映画「俺ではない炎上」のプロモーション目的で作られた、「どんな写真を投稿しても、絶対に炎上する」架空のSNS風サービス「絶対にバズるSNS」での話だ。
SNSにおける理不尽な“アラ探し”の思考プロセスを学習させたAIを実装。ユーザーが投稿した1枚の画像のアラを、AIが細部まで徹底的に探して炎上シナリオを自動生成。テキストSNSで炎上させ、最終的には“まとめ動画”を生成する。
……というサービスだと分かったうえで、さして思い入れのない画像で試したのに、思いのほかガックリ来た。たとえ理不尽で的外れな批判でも、人は傷つくものなんだな……。
「絶対にバズるSNS」は、X風のSNS「Y」にユーザー名や性別、年齢などを登録し、画像を1枚アップするだけで試せる。
アップ直後はポジティブなコメントがつくが、しばらくすると批判コメントが殺到。「たった1枚の写真から、なぜそこまでアラを探せるのか」と驚くほどさまざまな批判コメントが、大量に寄せられる。
例えば筆者が投稿した、ある日の食卓の写真。スーパーで買った惣菜を並べた彩り豊かな献立で、ツッコミどころはそれほどないと思ったが……。
「寿司の黄色いプラスチック容器、そのまま出すのはSDGs違反じゃない?」「まさかこの紙で油切ってるドヤ顔してる? だったらセンスなさすぎ」など「そこに突っ込むか!?」という斜め上の批判や、「せっかくの食事が台無しだよ。こういう細部に性格出るよね」など人格否定まで、批判的なリプライやDMが次から次に寄せられた。
Yのトレンドは「ジャンル渋滞」「献立迷子」「贅沢自慢」「油切れ見せつけ」など、1位〜10位まですべて、自分の写真への批判で埋め尽くされた。
批判は他のSNSに飛び火。メッセージアプリ「LIME」で友人から心配の声や母親から叱責が届き、最終的には炎上まとめサイトとショート動画にまとめられる。ショート動画は音声読み上げ付きだ。
開発したAIベンチャー・no plan inc.(新宿区)によると、「SNSで人々が他人の投稿のどこに目くじらを立て、どのように話を飛躍させるのかという思考パターン」をAIに学習させたという。
画像から客観的な事実を抽出後、悪意をもって曲解・誇張し、キャッチーな炎上シナリオを生成することで「人間の思考に近い、リアリティのある炎上体験を自動生成することに成功した」としている。
生成された炎上騒動をショート動画にした“まとめ動画”では、AIが合成音声で内容を読み上げる。
同社は、「従来のAI活用が『便利なツール」としての側面に留まっていたのに対し、本企画ではAIを「心を動かす体験の演出家」としてとらえ直した。人間の感情が揺さぶられる“炎上”のプロセスをAIでシミュレーションすることで、単なる情報提供ではない、ユーザーの記憶に深く刻まれる体験を設計した」と述べている。
映画「俺ではない炎上」は、同名の小説作品が原作。SNS上で殺人事件の犯人として個人情報をさらされた主人公(阿部寛)が、世間から追いかけ回されるさまを描く。9月26日劇場公開。
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