米NVIDIAの決算が発表され、神経質だった市場はひとまず落ち着きを取り戻した。だが「AIバブルは本当に続くのか」という不安は、むしろ強まっているように見える。もしバブルが弾けるとしたら、どんな形をとるのか。
ここでは“よくある暴落予測”ではなく、2026年以降に実際に直面し得る「3つの壁」を、AI・データセンターを巡る海外メディアの報道やテック各社の財務状況などに基づいて整理してみたい。
11月20日に発表されたNVIDIAの25年度第3四半期決算は、売上高570億ドル(前年同期比62%増)、純利益319億ドル(同65%増)。アナリスト予想を大きく上回る内容で、株価は発表直後に5%近く上昇した。
ところが翌日以降は反転下落。他のハイテク株の調整も重なり、「数字は強いのに、どこか不安」という空気が市場に残った。投資家が気にしているのは今期の業績ではなく、「この成長がどこまで続くのか」という根本的な疑問だ。
そして市場が本格的に意識し始めているのが、AIビジネスを支える“現実的な制約”。テクノロジーの限界ではなく、電力、コスト、財務――足元の事情が壁になりつつある。
GPUは買えても、それを動かす電力がない――AIバブルの最初の限界は、意外にも物理世界からやってくるかもしれない。
米メディアData Center Dynamicsによれば、バージニア州の大手電力会社Dominion Energyでは24年7月、データセンター向けの電力契約容量が半年で21.4GWから40.2GWへ急増したという。これは原発40基分に相当する規模だ。
しかし、これに対応できるインフラはない。米メディアWHRO Public Mediaによれば、バージニア州議会は計画中のデータセンターを全て稼働させるために、発電能力を150%増やし、さらに州外からの送電も150%増やす必要があると指摘しているという。
さらに深刻なのは「時間のギャップ」だ。GPUは数カ月で調達できても、データセンターの建設には最低でも2〜3年かかる。さらに電力網への接続申請から実際の送電開始までには、地域によって5〜7年が必要だ。問題はGPUではなく、それを動かす電力の確保になってきている。
25年にテキサス州で成立した新法では、電力不足時にデータセンターを強制停止できる「キルスイッチ」の設置が義務化された。21年の寒波で百数十人が死亡した経験から、AIブームで再び電力が逼迫することを警戒したものだ。AIブームによる電力需要の急増が、同様の事態を引き起こしかねないというのだ。
日本も例外ではない。電力広域的運営推進機関は25年1月、データセンターと半導体工場の新増設で、34年度までに電力需要が大幅に増えると予測を上方修正した。人口減少や省エネによる需要減少を、これらの施設による需要増が上回る形だ。
こうした中でハイパースケーラーのジレンマが鮮明になっている。米Amazonや米Microsoftは巨額を投じてGPUを調達したが、それを稼働させる場所が足りない。在庫は積み上がるが、稼働には電力インフラの整備を待つしかない。競合に先んじようと発注したGPUが、結局「使えない資産」として眠る可能性がある。
米国のデータセンター調査会社Data Center Watchによれば、23年から25年3月までの2年間に、総額640億ドル相当のデータセンター建設計画が、地域住民の反対や電力不足を理由に中止か延期された。このように「GPUはあるのに動かせない」状況が現実味を帯びている。
物理的制約でハイパースケーラーがNVIDIAへの発注を延期・キャンセルし始めれば「成長の天井」が露呈する。それは技術の限界ではない。ただ「コンセントが足りない」という、極めて現実的な制約だ。
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