SNSやニュースで、中国の人型ロボットの話題をよく見かけるようになった。ロボット開発企業の中国Unitree Roboticsの人型ロボットが、カンフーアクションを披露する動画や、EV(電気自動車)メーカーの中国小鵬汽車(シャオペン)の人型ロボットが、人間のように滑らかに歩く動画を目にした読者も多いだろう。
人型ロボットを開発する企業数も多い。2024年12月時点で、世界全体で人型ロボット本体を開発する企業約220社のうち、中国企業が半数を占めるという。
人目を引くデモンストレーションにとどまらず、一部では試験導入も始まっている。ロボット開発企業の中国UBTECH Roboticsは、人型ロボット「Walker S1」を中国BYDや独Audiなど自動車メーカーをはじめとする20社以上に導入し、生産ラインなどで実証実験をしている。他の企業の人型ロボットも、ファストフード店や銀行の窓口業務などでの導入例があるという。
この急成長を何が支えているのか。人型ロボットに関する中国の戦略や課題、今後の展望などを、現地の事情に詳しい野村総合研究所の李智慧氏(り・ちえ、未来創発センター エキスパート)に聞いた。
そもそもなぜ、世界的に人型ロボットが注目を集めているのか。李氏は未知のデータへの対応力を指す「汎化性」をキーワードに挙げる。人間の身体を模したボディーを持ち、急速に発達したAIによる自律的な歩行と判断ができるため、事前に教えていないさまざまなタスクに対応できることが強みだ。
また将来的には家事や介護など、家庭での人型ロボットの活用も期待される。李氏は「従来の産業用ロボットのように、一部の作業の効率化や代替にとどまらない」として、経済的なインパクトも大きいと指摘する。
中国の公的な研究機関「中国信息通信研究院」は、24年時点で、45年には汎用性のある人型ロボットが世界で1億台以上導入されると推測する。ロボットなどの物理デバイスにAIを組み込む「エンボディードAI」の市場規模は、約10兆元(200兆円)に到達するとしている。
なお李氏によると、一部の中国ロボット開発企業は「35年ごろ、技術の進歩によってはもっと早くなるかもしれない」と、より楽観的な見方を示しているという。
こうした人型ロボット市場で、何が中国企業の急成長を支えているのか。李氏は、大きく分けて3つの要因を挙げる。
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