第2回 相手を立ててねぎらえ目的を達成する説得法(2/2 ページ)

» 2008年07月02日 09時00分 公開
[平本相武(構成:房野麻子),ITmedia]
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奥さんをねぎらえ――夫の説得も「相手のため」

 ダンナさんが奥さんを説得する場合を考えてみましょう。

 例えば、ダンナさんが、田舎に行って土と共に生活したいと思い立ったとします。「会社を辞めて、土いじりをしたい!」という自分軸が明確になり、「絶対、自然と共に暮らすんだ!」とリソースフルになりました。そこで、家に帰って、「オレは明日、会社を辞めるぞ。お前も田舎について来い!」というと、10人中9人の奥さんは嫌だといいますね(笑)。「アンタはいいわね、好きなことが見つかって。私は毎日、炊事、掃除、洗濯と、大変なのよ。何が田舎よ、子供もこんな状況なのに。収入がいくら減ると思ってるのよ!」と、大抵はこんな感じになりますね。

 自分軸があって、リソースフルなだけではダメです。相手の立場に立つことが必要です。

 例えば、こんな感じで話してみます。

夫が妻を説得する場合

 「キミも毎日、大変だな。御飯も毎日工夫して作ってくれているし、太郎と花子が保育園に入って、熱が出たときもキミがちゃんとやってくれた。本当にありがとう(奥さんが大変だと思っていることを取り上げて、相手の立場に立つ)」

 ↓

 「ところでさ、ゴミ出しさ、ちょっと遠いじゃん。オレさ、会社に行く方向と違うけど、週に2回くらいだったらゴミ出すよ(ニーズを満たす1)」

もしくは、「キミさ、ずっとフラダンスやりたいって言ってたじゃん。水曜日だったら、オレちょっと早く帰ってきて下の子を見てるから行ってきなよ(ニーズを満たす2)」

 ↓

 「それで実はさ、オレ、やりたいことがあるんだ。土をいじりたいんだ。(いきなり会社を辞めて田舎に行くわけにはいかないので)それで、もしよかったら週末農園をやりたいんだけど(くらいにしておく)(自分の思いを伝える)」

 ↓

 「オレは太陽の下で土をいじっていると心が落ち着くから、キミが好きかどうか分からないけど、よかったら、キミも手伝ってくれないか(協力させる)」


 こう言われたら、「まあ、週末くらいだったら」となりますね。やっているうちに意気投合して、これは面白いとなるかもしれません。その後も「野菜はいいけど、田植えはヤダ」みたいに、いろいろと出てくるので、調整は必要です。そうやって、少しずつ相手のニーズを満たしながら、自分の要求も伝えます。この方法がマスターできると、誰とでもコミュニケーションできるし、どんな意見も通ります。

部下の話をちゃんと聞く――上司が説得するコツも「相手のため」

 上司の場合も同じです。そもそも、上司が何をしたいのか分からないと困りますから、まず自分軸を見つけてください。

 自分軸を見つけて、やる気や元気に満ちて、新しいプロジェクトを立ち上げたいと思った。そこで、「これを立ち上げたいから、キミたち、付いてきてくれ」と言って部下が素直に聞いてくれるかというと、そうそう簡単にはいきません。乗り気にならなかったり、分からないといったりします。

 自分の思いばかりを伝えると、聞かされた方は引いてしまうんですね。だから、これまでの例と同じく、先に相手の立場になることが大事です。

上司が部下を説得する場合

 「Bくんさ、前の会社で音楽の配信をやったんだって? それどうだったの? そうなんだ、それは面白そうだね。そこは大変だったんだ、そうなんだ(相手の立場に立つ)」

 ↓

 「どうしてこの会社に来たの? そういう思いで来たんだ、そんなことがしたかったんだ、なるほどね。じゃあさ、ウチの部でこういうことがあるから、そのうちこれをキミに任せるかもしれないね(ニーズを満たす)」

 ↓

 「そして、キミにはキミのそういう思いがあるように、僕にもこういう思いがあって、僕は今度、こういうのをやろうと思うんだ(プロジェクトの内容を説明して自分の思いを伝える)」

 ↓

 「今、話を聞いていると、キミはこういうところが得意みたいだから、ぜひ、力を借りたいんだけど、どうだろうか。キミが必要なんだよ(協力させる)」


 こう言われると、5人中4人くらいは、「じゃあ、私でよかったら」と言うでしょう。でも、1人くらいは、よく分からない、というように反応が鈍い人がいます。これは仕方ないことですね。その人に関しては期待はせずに、「ま、そのうち分かってくれるかな」くらいで置いておくしかないです。この手順で話せば全員が納得してくれると思ってはいけません。共感できないという人もいるので、聞き入れられないことを認める勇気も必要です。しかし、この手順を踏めば、大体の人には自分の思いが伝わります。


 今回は、まず相手のニーズを満たした上で、自分のやりたいことを説得する手順を解説しました。次回は、説得がうまくいかなかった場合の主な原因と対策などを見ていきます。

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ピークパフォーマンス 代表取締役

平本相武(ひらもと あきお)

 1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は「成功するのに目標はいらない!」。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。


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