全3回のシリーズでお伝えしてきた「プレゼン用スライドでよく使われる項目列挙型資料の弱点」。最終回は「数値に関する相場感覚が分かりづらい」ことを解決できるコツを紹介します。
文書化支援コンサルタント、開米瑞浩の「説明書を書く悩み解決相談室」第19回です!
前々回「プロには素人の疑問が分からないもの」からの3回シリーズで書いている「プレゼン用スライドでよく使われる項目列挙型資料の弱点」の最終回です。
まずは、項目列挙型資料の弱点をおさらいしましょう。
今回は3点目の「数値に関する相場感覚が分かりづらい」について書きます。
以下、簡単な例になります。
A市の2月10日の最高気温は−5℃だった(例文)
と書いてあるのを見たら、日本人なら「うわ、すごく寒かったんだね……」と思う人が多いのではないでしょうか。ちなみに北海道の札幌市でも、最高気温が−5℃というのは相当に寒い日です。
しかし、これを下記のグラフで見ると印象が変わってきます。
これを見ると「えっ、−5℃でも暖かい方なんだ!」ということになりますね。このグラフ自体は架空のデータで書いてますが、参考までに言うと1〜2月のロシアのモスクワよりも少し寒く、ハバロフスクよりは少し暖かいぐらいのレベルです。
−5℃という客観的な数値が寒いのか暖かいのかは、普段の相場値を知らないと判断ができません。この普段の相場値も、プロと素人で認識の差が出る部分で、プロはよく知っているのでこれを省略する傾向が出てきます。ところが素人はそれを知らないので、
「今日のハバロフスク、最高気温は−5℃でした」
「すっごく寒いんですね」
「え? いやとんでもない、ハバロフスクとしては暖かい方ですよ」
というギャップが出てしまいます。そのため、−5℃という定量的な情報の意味をきちんと伝えるためには、1つの数字(瞬間値)だけではなく、比較対象となる普段の相場値と、そこからの乖離をどう見るか、というプロの評価を一緒に伝えなければならないわけです。
「今日のハバロフスクの最高気温は−5℃(瞬間値)。この季節は−10℃が普通のハバロフスクとしては(相場値)、比較的暖かい日でした(評価)」
こんなふうに書かないと、−5℃の意味は通じないわけですね。
さて、それを踏まえて前々回から使っている課題原文を見て見ましょう。
プロトン経済研究所(仮名)が発表したマンション市場動向
2月の首都圏マンション発売戸数は2607戸で前年比28.8%減
→16カ月連続のマイナスを記録
在庫は14カ月ぶりに1万戸の大台割れ
→3月も在庫処理優先の動きが続きそう
マンション販売在庫数は9532戸で、前月比1770戸減
→厳しい金融情勢などを背景に各社とも在庫処理を積極化
→しかしマンション値引きや大型の住宅ローン減税が、マンション購入への追い風となりつつある
首都圏のマンション契約率は62.5%
→好不調の分かれ目とされる70%を引き続き下回った
1戸当たりの価格は4850万円となり、前年比で1.2%上昇
→都心の物件が多かったことなどが理由
例えば「2607戸」と「28.8%減」という数字。これはいずれも瞬間値です。「16カ月連続のマイナス」とあるので、最近の相場は前年比で一貫して低いことは推測できますが、それだけでは「28.8%減」という数字の意味はピンと来ません。極端な話、下記2つのパターンはいずれも「16カ月連続前年比マイナス」と「瞬間値28.8%」に当てはまりますが、その評価は正反対です。
このような「評価を下すための相場値」をプロは普段いちいち気にとめないぐらい熟知しています。よって、素人に話すときにはうっかり省略してしまう傾向が出てしまうのです。つまり、
「自分が知りすぎていることを、相手も知っていると思ってしまう」
という現象が、前回「プロが素人に教えるとき、ついつい省略しがちな構造の説明」で書いた「構造」についてだけでなく「相場」についても起こります。
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